「無理だよ。君に僕らのコトがわかるわけがない。……いや違うな、君じゃない。僕ら以外の誰にも、僕らのことは理解できない」
突然現れて、当然のようにサハラを連れていこうとしたそいつは、簡単にそう言った。
「そ…んなことあるわけないっ。私はサハラのこと分かってるっ。あんたは知らないけど、サハラのことならあんたよりきっと絶対わかるっ」
サハラは、私から少し離れてた。そいつを見た瞬間、とっさに近寄ろうとしたから。
「だから。それはありえないんだ。君が僕以上にサハラを理解するなんてことはね。だいたい、サハラだけを理解して僕を理解してないっていうのがおかしい。サハラを理解するということは僕を理解するということなんだから。僕らは、互いに互いを唯一理解しあえる存在なんだ。産まれたときから」
「だってあんたはそんなっ……私は、サハラが赤ちゃんのときから一緒にいるのよ!? なのに、あんたのほうが理解してるなんて…そっちの方がありえないじゃない!?」
「ありえるよ。事実そうなんだからね。僕らはキセキなんだ」
全部おんなじ外見で、どうしてココロはこんなに違うんだろう。
思いながら、サハラに言った。
「そんなことないよねっ!? サハラ、行ったりしないよね!? ずっと一緒って言ったよね!?」
こんなに不安がることないのに。サハラが行くわけないのに。だけど、胸が疼く。
――――サハラが離れてく――――
「君なんかにわかんないだろ? 一生を共有しあえる人間がいるなんてさ」
バカにした笑いをそいつはする。名前なんて知らない。
「うるさいっっ」
私は今きっと、憎しみの目をしてる。
「サハラっ」
黙ったままのサハラ。どうして?
「ねえサハラっ」
胸がつぶれる。涙なんてないけど。
「サハラ…っ」
「ごめん」
「――」
途切れたのは私の声。つながるのはサハラの言葉。
「……ごめん、砂乃は大好きだよ、砂乃とだったら、いつまでだって生きてけると思う。――けど、砂乃とはきっと死ねない。砂乃と一緒に死ぬのはできない。だけど、こいつとなら、死ねるんだ。タクラとなら、死ねるんだ。そういう――ちがいなんだ」
通り抜けるのはサハラの声。受けとめられない、私の思考。
立って、いられない。抜ける力。
「砂乃ッ」
サハラは私を支えたけれど、そのままそこに横たえた。
「ごめん、砂乃――」
手に触れたぬくもり。知ってる。これはサライの手。キレイだけど硬い、男の子の手。
「行くよ」
サライのカタワレが言う。冷たい。
「ごめんね――」
意識はとんでないのに、見えるのに聞こえるのに、動けない。
(なんで? サライ――?)
どうして、離れてくの?