白い息
 彼が怒っているのは、わかる。
 私の手はすっかり感覚を失って、気色の悪い色になっていた。もちろん足先も。頬に触れる髪は芯まで冷え切っているし、それに、そう、心もきっと。
 じっとしているのが好きだった。真冬に、路上で、薄着の上にコートを羽織って、脚を抱えてうずくまっているのが好き。彼にメールを送ってから、もう何時間過ぎただろう。まだまってるよ。そんなメールを。
 彼は来た。無視できないのは、私のことを知っているからだ。本当に、一晩くらいなら、動かずにいることを知ってるからだ。
 彼は、鈍感な私ですらわかるくらいに怒ってるって雰囲気をまとって、私に近づいてくる。私は、しゃがんだまま彼を見上げる。
 彼は黙って手をさし出す。私はその手をとる。彼は両手で私の手をつつんで、身をかがめて、めいっぱい、息を吹きかける。あたたかい、けどだから、余計に寒くなる吐息。彼は、こうされるときの私の気持ちを、知ってるんだろうか。もし知ってるんなら、知っててこんなことをしてるなら、何回地獄に落ちても足りないくらいにひどいやつだ、彼は。
「おまえな、いい加減にしろよ」
「……ん」
 こんなやりとりは、もう、飽きるほどに繰り返してしまった。私と同じくらい、やっぱり彼も弱くて稚拙なんだと、その度に知ってしまう。
 いつか、永遠に温かい部屋にいられるようになるだろうか。もし、そんな時が来るなら、私の隣にいるのは絶対に彼ではないと、私はそれも知っている。
 それでも、今は、彼以外の人がいないから、私はこうやって、彼を繋ぎとめている。