終末の音
 世界は揺れる。崩壊のときを迎えている。
 百年の契約で生まれた世界だった。夢のような時間だった。それが今、終わろうとする。残されたのは、四エム。
 男の住む、闇のようにくらい部屋。揺れる灯りと本棚からこぼれる物語の群れ。男の座るベッドのシーツだけが白い。病的なほど白い。
 男の体に力はない。うなだれた首、投げ出された腕、脚。すべてを揺れる世界に任せきる。絶望よりも深い淵に沈もうとしている。シーツよりも白い髪、かすかな光を反射させる暗緑の瞳。
 男は歌をうたう。甘く遠くへ響く声。自分を放棄したような男は、それでも歌を捨てていない。
 世界の崩壊は進む。地平の崩れる音が、男の住む部屋へ近づいてくる。世界の終末が近づいている。
 男は歌をとめた。終わったのではない、止めた。百年世界の最後の五エスに、男は女性の名前を紡いだ。そのために歌を止めた。

「まやか」

 世界は崩壊を終えた。