くずれる城
 その日、少女は夢を見ました。
 奇麗な、赤と青と緑の旗の立っている、白い塔のようなお城があって、それがくずれてしまう夢です。
 少女はめったに夢を見ないので、その夢をとっても特別なもののように感じました。
 けれどそのとっても特別な夢が、お城がくずれてしまうという悲しいものだったので、少しだけ残念でした。
 少女は、あの夢は本当に起こることなのかなぁと思いました。だけど、少女のいるお部屋の小さな窓からみえるお城は、夢で見たお城よりも小さく、青一色のはたがあるだけでした。
 少女は毎日何もすることがないので、よく空想して遊びます。今日は、その夢のことについて空想しました。
 ――どこかにああいうお城があって、誰も住まないからこわしてしまうのかしら?
 ――とっても強い風がふいて、それでこわれてしまうのかしら?
 ――あのお城はほんとうは、誰かがつくったミニチュアで、気にいらないからこわしてしまったのかしら?
 ――もしかしたらあのお城はこの世界のことで、お城がくずれるということは、世界がこわれるということなのかしら?
 少女は一日中ずうっとずうっと考えていました。
 と、遠くでどーん、というとっても大きい音がしました。
 何だろう、と少女は空想をやめて思いました。
 天井からパラパラとちりが落ちてきます。
 何だろう、何か起こるのかな。少女はワクワクして考えました。
 ――きっと誰かがここにきて……
 少女が空想を始めようとしたとき、天井がくずれてきました。
 一番おおきなガレキが少女の上にふってきたので、少女は顔以外が潰れて死んでしまいました。




 彼の足もとに、顔以外ガレキに押し潰された少女の死体があった。
 周りの様子からして、そこは牢屋だったのだろう。ねじまがった鉄棒もある。
 微かに見える少女の服は上質なピンク色だった。
「王女……リメイラ様――――」
 一兵士である彼も、その名と顔は知っていた。
 絶対的な王制で民を苦しめた現王の妹であり、前王の一人娘。王女リメイラ。美しく聡明であることで有名であった彼女は、ここで何を思って一日一日をすごしたのだろう。
 いや――民を苦しめた若き王は、もはや王ではなくなった。
 赤と青と緑の三色旗を掲げた王城を滅ぼし、青、赤、白、黄の旗をなびかせる四大塔をもくずした国民たちは、その日暴力王を王座からひきずりおろした。