しんしんと。ひらひらと。
何もない広場の、小さな木の落ち葉と一緒に、寒い雪が降っていた。
ひらひらと。しんしんと。
一年で始めての、雪が降っていた。
始めての雪が降ったその日、エセルは出掛けてはいけないと言われたけれど、母の目を盗んで、何もない広場へ向かった。
いつもいっしょに遊んでいた女の子が、きっとまた待っていると思って。
もう夕方で、いつも会う時間よりずっと遅くなってしまったけれど。
そしてその女の子は、雪の降る中、小さな木の下に居た。
「シージェスタ……」
自分で自分を抱きしめて座っていた女の子の名前を、エセルは呼んだ。反応はなかった。
そっとシージェスタの頬に触れた。冷たかった。
こわごわと、シージェスタの首筋に、エセルは手を当てた。脈を打ってはいなかった。
シージェスタの身体を抱きしめた。凍えていた。
「………………」
シージェスタの耳元に、エセルは何かを呟いた。
それからエセルは、シージェスタが前に言っていたことをふいに思い出した。
「リメイラがいるでしょう?」
「兄様は、リメイラを可愛がってくれているそうよ」
「私は城にいられないけれど、リメイラはいるわ」
「城に居られて、きっとリメイラは幸せだわ」
「だから、私は城に居られなくてもかまわないのよ」
「私? 私はシージェスタ」
「育ててくれた人がもういないから、一人で生きてるの」
「生まれてすぐに、私は城から追放されたわ」
「だって私とリメイラは双子だったから」
「もう一人をおしのけて先にでてきた私は悪い子だから、城から出ていかなくてはならなかったの」
「でも、リメイラは城にいるわ」
「リメイラが幸せだから、私はいいの」
ずっと前にシージェスタがそう言っていたのを、エセルはふと思い出した。
一年で始めての雪の日、女子供は外出を禁止され、男たちは反乱のために王城へ向かった。
降りしきる雪の中で、国民たちは赤と青と緑の三色旗を掲げる王城を滅ぼし、青、赤、白、黄の旗をなびかせる四大塔をもくずし、暴力王を王座からひきずりおろした。
その戦いの中、王女リメイラは冷たい牢の中で生涯を終え、双子の姉であるシージェスタもまた、凍える雪の中で命を失った。