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『世界の夢の本屋さん』
 ロンドン、パリ、ローマ/ミラノ/バッサーノ・デル・グラッパ/レッジョ・エミリア、アムステルダム/マーストリヒト、ブリュッセル、ニューヨーク。
 欧米の書店 33 店舗を、各店見開き 3 ページずつを使ってたっぷりの写真で紹介する。写真の他にライターによる紹介文、そしてその書店のオーナーや店長、店員のコメントが載せられている。
 紹介されている書店は、いわゆるチェーン書店ではなく個人経営の書店が主だ。品ぞろえ、内装、ディスプレイ。書店というひとつの空間を構成する細々としたものに逐一気を配り、Amazon が示すインターネット時代、電子書籍が代表するデジタル時代に生き残るべく、個性化を選んでいった店が並んでいる。

 扉裏には、「本屋さんが好きですか?」と大きく書かれている。まずはこの問いからこの本に関する感想を始めなければいけないだろう。
 書店は苦手だ。本好きと本屋好きは違う。この大判の写真本を読み通してみて、自分は本屋好きではないとつくづく実感した。
 もともと、書店が苦手だという自覚はあった。書店にいると「こんなに読む本がある、早く手持ちの未読本を読まなければ」という気持ちに駆られて、長居をしていられない。すぐにもどこか喫茶店にでも飛び込んで、鞄のなかの読みさしの本を開きたくなってしまう。
 本を読むことが好きなのであり、書店は本を見つける場所なのであって、書店そのものを愛でることはない。その認識がいっそう深まった。

 掲載されている書店は、写真の力もあって、いずれも個性的で美しい。空間として魅力があり、観光名所に充分なり得るような吸引力をそなえている。歴史の古い名店から真新しいアートブック専門書店まで幅が広く、自分の好みの傾向を知ることもできる。

 なのにどこかわくわくしきれなかったのは、日本語以外は満足に読めない私には、どの書店の本も読むことができないとわかっていたからだ。どんなに美しくても、読めない本には価値がない。本はまずその根本に「読まれる物」という宿命がある。それをまっとうさせてやれない本を何冊目の前に積まれても、それは本質的に本ではない。ただの紙束に過ぎない。

 これが欧米の書店に関する本でなく日本の書店を紹介する本だったら、心の底から楽しめただろうと思う。本当は、ただぱらぱらとページをめくって、数々の写真の美しさにほれぼれとため息をつけばいいだけなのだと、頭ではわかっているのだけれど。
初版:2011 年 7 月 エクスナレッジ
≫ Amazon.co.jp
2012.11.28