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『127時間』
2010 年 アメリカ・イギリス 94 分
原題:127 Hours
監督:ダニー・ボイル
キャスト:ジェームズ・フランコ / ケイト・マーラ / アンバー・タンブリン / リジー・キャプラン / クレマンス・ポエジー / ケイト・バートン / トリート・ウィリアムズ
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 実在する登山家のアーロン・ラルストンの体験記を原作とする映画。
 いつものようにひとりきりで山に向かったアーロンは、落石に巻き込まれて狭い岩間で右腕を石に挟まれる。不安定な足場と誰一人通らないだろうロケーション、食べ物と飲み物はごくわずか。アーロンはそこで、たったひとりで闘い生きる。

 100 分足らずの短めな映画とはいえ、画面にいる登場人物は終始ほぼアーロンひとりのみで、場所もずっと変化のない岩石の山だ。観客を退屈させても仕方ない条件だと思う。
 けれど監督はその条件を魅力に変えてみせる。映像と音楽、そして俳優をフルに使って、観客にスクリーンを凝視させる。
 パンフレットの解説にも同じようなことが書いてあったけれど、「俳優」「映像」「音楽」という映画を構成するために最低限必要なこの三つの要素が、この作品の世界を完璧に作り上げ、最高に盛り上げている。くだらない特撮も大仰な演出もエンディングのどんでん返しもなし。私の好みど真ん中の、シンプルで力強い、映画と呼ぶべき映画。

 これは、アーロンが生きる物語だ。ひとは誰もがひとりひとり違った人生を歩み、異なった考えのもと暮らしている。誰もが誰とも違っている。当たり前のことだ。
 そんなこの世界で、きっとたったひとつの万人の共通事項は、「生きている」ということなのだと思う。これは、その「生きる」ことそのものを描いた映画だ。

 アーロンは決して万能のヒーローではない。一匹狼で、わがままで、ひとを多少傷つけても自分の好きなように生きている。家族があり、仕事を持ち、恋人と付き合ったり別れたりする。
 そういう当たり前の人生を送るアーロンが、自分の生の終わりを感じた時に目にするもの、考えること、思い出すもの、欲するもの、決断するもの、そして発する言葉。悟りとすら言える境地と、それすら凌駕した生への望み。

 くり返し観る映画ではない、と思う。パンフレットに載ったインタビューで、アーロン・ラルストンさんは「(僕は)大自然からプレゼントをもらったように感じている。(中略)大自然へ、お返しをしたいのさ。」と語っている。観客はこの作品の世界に浸るべきではなくて、この作品から得たものを現実に立ち返って返してゆくべきなんだと思う。
2011.06.22