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『ベン・ハー』
1959 年 アメリカ 222 分
原題:Ben-Hur
監督:ウィリアム・ワイラー
キャスト:チャールトン・ヘストン / ジャック・ホーキンス / ヒュー・グリフィス / スティーブン・ボイド / ハイヤ・ハラリート / マーサ・スコット / キャシー・オドネル / サム・ジャッフェ
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 キリスト生誕から二十年余り後、ローマに支配されたユダヤで、ユダヤ人貴族のジュダ・ベン・ハーは司令官として赴任してきたかつての幼なじみであるメッサーラと再会する。

 200 分を超える大部の映画ながらまったく退屈しなかった。迫力に飲まれ、緊迫感を保った画面に目が釘付けになり、息をつめて観終えてしまった。私は宗教心のない人間なのでキリスト教を信じる方が観るのとはだいぶ違った観方をしたと思うけど、純粋に一映画作品として観客を作品世界に引き込ませる力を持っていると思う。

 キリストが生まれ磔刑になるまでのまさにその時代に生きたひとりの男の半生を描く。幼なじみに裏切られ、家族と離れ離れになりその生死は定かではなく、自身は奴隷よりも身分の低いガレー船の漕ぎ手に落とされる。
 凄絶な環境において、ジュダは自らをガレー船に追いやったメッサーラへの憎しみだけを糧に生き抜いてゆく。このガレー船で櫂を漕ぐジュダの表情は忘れ難い。体を丸ごと使って漕ぎながら、目はひたと前を見据えて揺らがない。それほどまでに、ジュダの内側は憎しみで満たされている。
 ジュダの憎しみはまずメッサーラに向かっている。しかし、憎しみというのは決して満足を知らない感情だ。ひとつ復讐を果たせば、次の敵が見えてくる。復讐が蝕むのは、復讐される者でなく復讐をする者だ。ジュダは自らの中に燃える憎しみの火に滅ぼされようとする。

 エンディングに関しては、やはり私のような宗教心のない人間にとっては座りの悪さを感じるものだった。また映像面では、やはり五十年以上前の映画ということもあって、特に合成技術を使っているシーンでは意識がそちらに引っかかってしまったりもした。
 けれど、それはいずれも決定的な瑕疵ではないと思う。さまざまな面で、現代ではもう撮ることのできない映画なのではないかなと思う。
2011.05.22