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『コンセント』 田口 ランディ
 『コンセント』を知ったのは中学 3 年生、読んだのは早くとも高校 2 年生の時だ。それから 2、3 度読み返したけれど、読書記録をつけだした 2005 年の 6 月からは一度も読んでいない。
 幼かった私には刺激の強すぎる本だった。実の兄の腐乱死体、遍在する死臭、精神疾患、カウンセリング、過激なセックス、シャーマニズム。だから特殊な本のひとつになった。そもそもが表紙からして中学生の目を引くには充分過ぎた。

 しかし、自分にとって特別な一冊であることを重々わかった上で再読した今回、自覚していた以上に自分がこの本から、正確には主人公の朝倉ユキから影響を受けていたことを知った。自分に似ていると思ったから初読時にこの本に言い知れぬ感慨を抱いたのか、それともこの作品に魅入られたことで私の人格はユキに似ていったのか、今となってはもうそれは判然としない。起こってしまった不可逆な変化の元を明示することはできない。
 とにかく、今回私は、ユキというひとりの女にのめり込むように、彼女の体のなかからこの物語を見るように、『コンセント』を読んでいた。ただし、『イッツ・オンリー・トーク』の感想で「優子は私だ」と言ったけれどユキに同じことは言えない。私にユキのようになれる素養はない。
 初めて読んだ時から、私はユキになりたかった。けれどなれなかった。そして、時間を経てまた『コンセント』を読んで、私はユキの行き着いた先の姿を悲しく感じていた。それは私が俯瞰することを覚えたからだと思う。

 物語は、ユキの兄の死で始まる。精神疾患患者のような異常さをはらみながら、しかし決して病人ではない、あいまいな線上にいたユキの兄は、ある日家族の前から姿を消し、数ヶ月後に死後数週間を経た状態で発見される。彼は一人で暮らすために借りたのだろうアパートの一室で、引きこもり、食べることをやめ、緩慢な自殺とも言える行為の末に孤独死した。
 真夏に閉めきったアパートで腐っていったユキの兄の死体の描写は強烈だ。行間からその腐臭がただよってくる気すらする。そしてそこからユキは、兄の死を解明するという題目のもと、自分の抱えてきた生きづらさの原因を探り始める。

 カウンセラーや精神科医、霊能力者にシャーマン、沖縄のユタ。ユキはあらゆる手段で兄の死と自分の持つものに迫ろうとする。それは危険な行為でもあるけれど、ユキは決してやめられない。

 どんな物語だって同じことだけれど、この本については改めて言っておく。きっとこの小説は読む人間によって何万通りもの意味を持つだろうと思う。あのエンディングが、時間を置いて読み返した私にティーンの頃とは違って映ったように。
 少々奇をてらったエンターテインメント佳作から、人生の一端を破壊する一冊にまで。
初版:2000 年 6 月 幻冬舎
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2012.01.22