映画 > 洋画
『ドライヴ』
 修理工場に勤め、時に映画のカースタントマンをこなし、裏稼業では強盗の逃がし屋として働く一人のドライバー。夜の陰りに身を沈ませ、感情を持ち合わせることを忘れたように表情が現れず、極端に言葉を発しない。
 何も求めずただ生きられるように生きていた彼がひとりの女性と会った時から、この映画は回り出す。

 愛した女のために命を懸ける裏世界の生きる男。女を守るために危険なヤマを踏み、それまでの日常を失ってゆく男。
 プロアマ合わせれば、似たような設定と筋立ての映画が 100 本あったっておかしくないような、そういうどこにも驚きのないストーリーである。何もかも定型どおり。始めから終わりまで、展開に意外性は一切ない。
 が、それがなんだというのだろう。「これまでになかった発想」なんかに頼らなければ成り立たない作品に、一体どんな価値があるというのだろう。

 光と影のあいまいかつ決して消え得ないコントラスト、男が示す愛のかたち、女が手放せない情の柔さ。せりふ回しや役者の見てくれでなく、光源と俳優の位置、そこから生まれる陰影、空気感。そういったもので無言の情景を描き出す、技量にあふれた映画である。
 奇抜なアクションにも、カーチェイスの迫力にも頼らない。どんなにハードなシーンにもどこか乾いた現実感のようなものが漂い続ける。その静けさを失わない映像が、一度ひとつことに一途になるとどこにも揺るぎを生まない堅い習性を寡黙さの下に持つ主人公とオーバーラップする。

 始まりのシーンから、「70 年代か 80 年代の映画みたいだ」と思っていた。その感想は画面が進むたびに強まってゆく。よくぞ 2010 年代にこんな映画を撮ってくれたものだと、感嘆すら生まれてくる。
 トレイラーも観ずに映画館に足を運んで、カーチェイスシーンのスピード感が売りのアクションムービーだと思っていた。映画に対する勘が鈍っているのかもしれない。見逃さずに済んでよかった。観るべき映画だった。
2011 年 | アメリカ | 100 分
原題:Drive
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
キャスト:ライアン・ゴズリング、キャリー・マリガン、ブライアン・クランストン、クリスティーナ・ヘンドリックス、ロン・パールマン、オスカー・アイザック、アルバート・ブルックス
≫ eiga.com
2012.04.09