メモ
2013.02.03
 性の物語には基本的に惹かれない。私はもう自分の性を見つけてしまっていて、性は生身の体の間でしか価値を持たないと感じているからだろうと思う。活字になった性は、この一冊が成し得たくらいに素晴らしく綿密に正しく精確にニュートラルに描写されてさえ、あっけなくも意味を失ってしまう。

 だから、三本の短篇のうち「ジェシーの背骨」が一番心に沁みた。「ベッドタイムアイズ」と「指の戯れ」は性こそが中心に据えられ女と男が互いに自分の性に翻弄される話だけれど、「ジェシーの背骨」はそこに 11 歳の少年が介在する。初めてセックス以外でつながる女と男(ココと、彼女が愛した男の息子ジェシー)が登場し、体液の臭いから開放された関係性が描かれる。情欲以外の意味を持つ体温が描写され、ようやくそっと息をついた。
 技巧的とすら言える間違いのない視線で性を描ききった前二篇は驚嘆にすら値したけれど、「ジェシーの背骨」には読者の心をほんのりと温め安堵させるものがあると思う。

 「ベッドタイムアイズ」と「指の戯れ」で登場するふたりの女は、私に似ているようでまったく異なる。むしろ私は、11 歳の少年であるジェシーにもっとも心性が近いんだろう。