メモ
2013.03.14
 ひとりの女性が死の二週間前に娘へ宛てた手紙の下書きとして吹き込んだテープの書き起こし、という体裁。であるから、小説を読んでいるというよりは、問わず語りの見知らぬ他人の思い出をじっと聞き入る気持ちで読んでいた。

 深くない、詩的でない。多少、視野狭窄的である。小説として重要な何かが欠けている感じがする。

 けれど、どうしても飲み込まれてしまう。大阪万国博のあった1970年が舞台であり、現代とは違う距離感で描かれる恋愛模様が奇妙なほどの郷愁を誘う。本当の1970年を知らない私はこの郷愁が正しいかは知らない。
 しかしとにかく、この小説は目を離させなくさせる引力を持っていた。