映画 > 洋画
大いなる陰謀
Lions for Lambs
2007年  アメリカ
監督 : ロバート・レッドフォード
キャスト : ロバート・レッドフォード / トム・クルーズ / メリル・ストリープ / マイケル・ペーニャ / デレク・ルーク
>> goo 映画

 アフガン戦争に新展開をもたらすための作戦を自分の大統領への階段として展開する上院議員、彼お気に入りのジャーナリスト女性、30年以上教壇に立ち続けてきた大学教授。ジャーナリストは、上院議員の展開する作戦を国民に伝えるためのスピーカー役を求められ、大学教授は優秀な教え子ふたりが志願兵として作戦に参加することを止められなかった。

 「武装解除―紛争屋が見た世界」という、アフガン戦争を含めたここ十年ほどの国際紛争に関する新書を読んでいる最中だったので、ちょうどタイミングがいいと思って観てみた。
 トム・クルーズなんかが出ているといわゆるハリウッド映画を想像してしまうけれど、この映画は違う。娯楽作品を期待して観にいっても、たぶんちっとも楽しくない。ので、デートや時間つぶしにちょっと映画でも観ようか、というときにはおすすめしない。極端にハードではないけれど、淡々と、現実に起こっているだろうことを描いているからだ。いや、現実があんなにもきれいにつながっているわけはないのだけれど、ものすごく象徴的にまとめた現実だと思う。

 トム・クルーズ演じる上院議員は、次期大統領候補となるための手段として、アフガン戦争において新規作戦を独自に展開する。彼はとても自信家かつ野心家で、周囲を自分のために扇動して利用することになんのためらいも持たないタイプだ。
 そして、彼が自分の行動の広報役として指名するのが、メリル・ストリープ演じる女性ジャーナリスト。彼女は真実を報道することを使命と考える、ごくまっとうな報道者だけれど、強行な手段に出られるほど“非現実的な”人物ではない。自分の生活や立場と、真実を報道する義務。このふたつをはかりにかけて大きく揺れてしまう、ごく平均的な社会人としてのジャーナリストだ。

 「大いなる陰謀」は一対一の対話が三つ、それぞれ順番に進んでいって展開される。つまり、六人の主要人物。そのうち、上院議員と女性ジャーナリストのシーンがひとつ。そして、大学教授とその教え子の面談のシーン。

 教え子は大学教授にとって、将来を大いに期待できる優秀な学生だ。けれど彼は最近、授業への出席率が悪い。そのことについて話をするなかで、大学教授は、かつての教え子ふたりの話を出す。
 この大学教授が、監督でもあるロバート・レッドフォード。かつてベトナム戦争に徴兵され、今は教え子たちのなかから将来性を持つ学生を見つけ彼らの背中を押すことを生きがいにしている。面談の相手、そして面談のなかで話に出るふたりの学生もそういった、彼が将来に期待する学生だ。

 三つ目のシーンは、面談のなかで話に出たふたりの学生。彼らはアフガン戦争に志願兵として参戦し、上院議員の作戦に参加していた。作戦の最中に彼らの乗ったヘリは攻撃を受け、ヘリから振り落とされたひとりを追い、もうひとりもヘリを飛び降りた。負傷した彼らは雪山でアフガン兵たちに見つかり、交戦する。

 これらのシーンが順繰りで流れてストーリーは進むのだけれど、最初にも言ったとおり、決してハリウッド的なドラマチックな展開はない。それぞれがそれぞれの立場で、できうる限りのことをするだけの話だ。そして、全力をつくしたからといってハッピーエンドが待つわけがないのだ。彼らがいるのは戦場であり、戦時下のひとつの国なのだから。

 ところで、決してアメリカが正義でありアフガンが悪であるという描き方はしていないのだけれど、やっぱり製作がアメリカというだけで、なんとはなしにあざとさを感じてしまう。私たちは自分たちの正当性のなさを自覚してますよ、というような。それは、「グアンタナモ、僕達が見た真実」を観たことも関係しているかもしれない。やっぱり、スター俳優が演じた映画とドキュメンタリー映画では、伝わってくるものも重さもちがう。
 それでも、待っているエンディングは、ああ、こういうものだろうと、無理なく納得できるようになっている。決してこじつけの“まとめ”を挿入していないだけ、誠意のある映画なのかもしれない。できれば登場人物それぞれにきちんと感情移入して観ると、よりいっそう得るところのある映画だと思う。ところどころで、それぞれの会話がリンクしていたり対比していたりするので、そのあたりも気をつけて観ているときっと面白い。
 大学教授が面談をする学生・トッドは、日本にも共通する(いや、日本の方がもっとひどいけれど)いまどきの無気力で、なおかつ論理で武装して端から世界を否定しているタイプの学生で、彼の思考やしゃべり方、ことばの選び方、そしてエンディングはとても面白いと思う。自分もいちおう、学生をやっている身として。
2008.04.24