2008年 日本
監督 : タナダユキ
キャスト : 蒼井優 / 森山未來 / ピエール瀧 / 竹財輝之助 / 齋藤隆成
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ひょんなことから前科者となってしまった鈴子は、家族のなかの空気に耐えられず「百万円貯まったら(家を)出て行きます」と宣言する。それから、海辺の町、山間の村、郊外の市街とさまざまな場所で暮らし、百万円貯まるたびに引越しをくりかえす日々が始まった――。
海辺の町と山間の村で“自分に優しい人”から逃げ続けた鈴子が、郊外の市街でようやく自分の心情や前科者になった経緯を語る相手を見つけるという構成。
鈴子が実家を出るきっかけになったのは、小6の弟の「なんで帰ってきたんだよ! 受験に影響するじゃないか!」ということばなのだけど、この弟と鈴子の立ち位置の対比がものすごい。
鈴子は年の離れた姉っていう気負いから弟を守ろうとするのだけど、鈴子が支えられ続けてなおかつ救われるのはその弟の強さに。
守っている方が実は守られているというのはよくあるパターンだけど、鈴子と弟の関係は弟の無垢さというか、無自覚さが際立っている。そのために、鈴子の弱さがまざまざと浮き彫りになる。
予告編でも使われているシーンなので書いてしまうけど、「むしろ(自分なんて)探したくないんです。探さなくたって、いやでもここにいますから」という鈴子のせりふがある。
たぶん鈴子は、自分のいない世界が欲しかったのだろうなと思う。だから、自分という存在がそこに認められると途端にその場からいなくなってしまう。
そうやって逃げ続けた鈴子が、いろんな人との出会いを糧にして犠牲にして、やっとの思いで“今ここにいる自分”を見れるようになるまでの長い経過を追ったストーリー。
鈴子をひとまわり成長させるのは人とのつながりである、という話なのだから当然なのかもしれないけれど、本当にさまざまなかたちの人間関係が登場する。たった1本の映画によくつめこんだと思うし、これくらい中身が凝縮されている映画が私は好きだ。
あと、郊外の市街でようやく出会った男の子とのぎこちない距離感とか、彼に惹かれてる自分に対して鈴子がひとりごちるせりふの冷めた自嘲の視点とか、それでも本人の前じゃ“女の子”になってしまったりとか、良い意味で生々しい恋の空気が流れているあたりがとても好き。誰にでも絶対に身に覚えがあるんじゃないかって思う(少なくとも私にはある)。
ただ、個人的にラストはどうしても好きになれない。ハッピーエンドじゃなきゃいやだなんてことは思わないけど、まず今自分がいる場所(もっと言うなら今まで自分が通ってきた町)に向き合うところから始めて欲しかったし、またそうじゃなきゃ意味がないんじゃないかとも思う。
ちがったエンディングなら、loveカテゴリに入れていたと思う。心から惜しい。