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落下の王国
The Fall
2006年  アメリカ
監督 : ターセム
キャスト : リー・ぺイス / カティンカ・アンタルー / ジャスティン・ワデル / ダニエル・カルタジローン / エミール・ホスティナ / ロビン・スミス / ジートゥー・バーマ / レオ・ビル / ジュリアン・ブリーチ / マーカス・ウェズリー
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 左腕の怪我のために入院中の少女アレクサンドリアと、撮影中の事故で足を怪我し歩けないスタントマンのロイ。恋人を失って失望に暮れるロイは、アレクサンドリアを利用して自殺するための薬を取ってこさせようと考え、アレクサンドリアの気を引くために思いつくままにお話を語りだした――。

 ロイの語るお話のなかでは隅々まで構成された映像美が見ものなのだけど、どうも「ザ・セル」を思い出すと思ったら同じ監督の作品だった。納得。
 ロイのお話は、5人の勇者が横暴な支配者を倒しに行くというとてもオーソドックスなもの。それを贅沢すぎるほどに凝った映像にしている。

 お話のなかの映像は見ていてワクワクするけれど、正直なところメインであるロイとアレクサンドリアのストーリー自体はちっとも心に迫ってこなかった。その原因はたぶんアレクサンドリアだ。
 アレクサンドリアは一見奔放な子どもに見える。けれどその一方で、彼女の一家は移民らしく、言葉の通じない母親のために自分の主治医との間に入って通訳をしたり、その時に母の負担にならないように嘘をついたりする。
 アレクサンドリアは“年のわりに大人び”なければならなかった子どもなのだ。彼女がロイや看護婦に対して底抜けに無邪気なのは、その反動なのだろう。

 けれどその苦労した生い立ちまで含めて、私はアレクサンドリアに好感を抱けなかった。その理由は彼女の無邪気さからくる無神経さだろう。それが子どもの可愛らしさだと言えばそうなのかもしれないけれど、そもそも私は子どもが苦手だ。「ポネット」とか「リトル・ダンサー」とか、そういう映画に食指が動かない私には観ているのがつらい映画だった。彼女に好感を抱けない時点で、私にとっては映像以外楽しみどころのない映画になってしまった。もうひとりの主役であるロイも、アレクサンドリアの穴を補うにはあまりにも後ろ向きで情けなくて、魅力のない男だと思う。
 子どもの純真さに救われる人には、いい映画なんじゃないだろうか。

 ターセム氏のつくるMTVのショートムービーは大好きだったけど、あのクオリティを映画という長時間の映像でも維持するのは無理なんじゃないかと思う。短い時間なら始まりから終りまで計算しつくして一切の手抜きをせずに作ることもできるかもしれないけれど、映画でそんなことをしていたらいつまで経っても出来上がらないだろう。重要なシーンとそれ以外のシーンを選別して、ある程度手を抜けるシーンを設けておかなければ2時間もの映像作品は作れないだろうと思う。
 それならいっそ、ショートムービーに特化するのもひとつの手だと個人的には思っている。これは「ザ・セル」を観たときにも思ったことだけれど。
2009.01.16