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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
2009年  日本
監督 : 庵野秀明
キャスト : 緒方恵美 / 林原めぐみ / 宮村優子 / 坂本真綾 / 三石琴乃 / 山口由里子 / 山寺宏一 / 石田彰 / 立木文彦 / 清川元夢 / 長沢美樹 / 子安武人 / 優希比呂 / 関智一 / 岩永哲哉 / 岩男潤子 / 麦人
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 私はエヴァンゲリオンはテレビ版が一番好きな人間です。まず最初にそれを断っておこうと思います。

 ヱヴァンゲリヲン新劇場版の第二弾。エヴァンゲリオンでは登場しなかった真希波・マリ・イラストリアス、そして式波・アスカ・ラングレーが登場しサード・インパクトへ物語は向かっていく。

 エヴァは思春期の物語だった。親との折り合い、変わっていく環境への適応、人間関係の構築。シンジという少年を中心に、すべての登場人物が深い葛藤を抱えている。28歳のミサトにしろもっと上の世代のゲンドウにしろ、その葛藤の幼さと深刻さは14歳のシンジやアスカと変わらなかった。私はそれぞれが自分を見つけていくその過程に触れるのが好きでエヴァンゲリオンという作品に惹かれた。
 ヱヴァは違う。ヱヴァは恋物語だ。

 映画 4 本でテレビ26話分と同じ過程をたどることはできない。では凝縮するためにどこが削られたのか。私には、人間関係が築かれていく過程が抜け落ちたように見えた。アスカとシンジが互いになじんでいく過程、アスカがレイに敵愾心を感じるようになる過程、それらがない。
 ヱヴァは思春期のなかから恋という要素だけを抜き出している。シンジを巡る恋物語になっている。それが悪いというわけではないけど、私の好みからは離れていってしまった。最後のカヲルのせりふを聞いて、ヱヴァを集約するとシンジとレイとカヲルの三角関係にまとまってしまうんじゃないかという危惧を感じてしまった。

 私は全女性キャラクターのなかでアスカが好きだ。私に一番近いキャラクターだからだと思う。アスカの苗字が惣流から式波に変えられたというのが破を観る気になれなかった一番大きな理由であるというほどに、アスカは私にとって特別なキャラクターだ。
 そのアスカが、エヴァと比べて一番性格が変わったキャラクターだと思う。あくまでヱヴァはヱヴァとして見るように努めてはいるけれど、やはり比較はしてしまう。闊達で “ふつう” に見えて、その裏にもっとも弱い部分をかかえているというのがエヴァのアスカだった。ヱヴァでのアスカはもっとずっとわかりやすく弱い人間になっている。
 アスカに限らず、ヱヴァではキャラクターの内面がわかりやすく透け見える。それが私の好きなエヴァの深みを軽いものにしている。

 レイがみんなのお姉さんという立ち位置にいたこともまた新鮮だった。エヴァ・ヱヴァ共に母という位置はユイさんが占めているけれど、テレビ版ではどこまでも無個性だったレイがヱヴァではあっという間にエヴァでの(二人目の)レイの成長を追い抜いていく。シンジやアスカ、そして真希波を含むチルドレンの年長の位置にレイがいる。

 女性キャラクターではアスカが一番好きだと言ったけど、全キャラクター中で私が一番好きなキャラクターはシンジだ。私は主人公が好きになれない作品は好きになれない。
 そんな私だけれど、新キャラクターの真希波ですらシンジの強さを際立たせるためだけに存在しているのはやはりひっかかってしまう。強さのインフレが起こってしまいそうなのは怖い。ここでも私は、テレビ版のシンジが好きだというところに帰結してしまう。テレビ版のシンジは弱い。けれどその弱さがアスカにとっての写し鏡となりレイの心に届く光になったのだと思えてならない。

 一度つくったものをもう一度つくり直すのは創作者にとって危険な行為だ。無理な話だと言ってもいい。一度たどった道はもう知ってしまった道だ。知っている道は効率的に歩いてしまう。一度目に歩いたときの試行錯誤をできない。その試行錯誤が作品に魅力を生み出すのにだ。
 それを思うと庵野監督はよくやっていると思う。それをカバーするための真希波という新キャラクターであり設定変更でありストーリー変更なんだろう。けれどそれでも、“二度目” という危険を回避し切れているようには見えない。
 もっともこれは、私があまりにテレビ版に惚れ込み過ぎているからそう感じているだけのことなのかもしれない。
2009.08.26