初版:2003年04月 講談社
蔵本:2006年10月 講談社文庫
>> Amazon.co.jp
プラネタリウムで拾われ、その日上映していた彗星の名前にちなんでテンペルとタットルと名づけられたふたごの物語。
ふたりはプラネタリウム技師に育てられ、テンペルは世界をまたにかける稀代の手品師に、タットルはプラネタリウムの解説員兼郵便配達人となった。
この小説にはたくさんの別れ登場する。事故、独立、死別。そしてさまざまなものが変化を強要される。侵略、崩壊、解散。
これらのできごとに人々は立ち向かい、ときにうち勝ち、ときに敗北してくずおれる。しかし決して絶望にとらわれ続けはしない。悲しみのなかでこそ、人々はそれぞれに自分の果たすべき役割を思いだし、敢然と立ちあがっていく。
彼らが立ち上がるのはだれかに与えられる救いによってではない。あるのはただ、現実に存在している希望だけだ。だからささやかだし、それだけでは人は救われやしない。
けれど、与えられる救いはあまりにもろい。傷ついた人々がすがりつけばたちどころに砕けてしまう。うつむいた人々にさしだされるものは、たとえ目に見えないほどかすかであったとしても確かな希望でなければならない。そうすれば、時間をかけ、周りの人々に支えられながらも、ふたたび人は立ち上がるだろう。
変化に満ち満ちたこの小説のなかで、ただひとつ変わらないもの。それが夜空の星々である。そしてその星々を映したかのようなプラネタリウムと、泣き男と呼ばれるふたごの父が語る、星々の物語である。
つらくもあり悲しくもある現実とはあざやかな対をなす星々の世界は、この小説の背骨となっている。そして、テンペルとタットルを心の奥底から力づよく支えつづけている。
夜空に支えられたふたごが、この小説に登場するすべての人々にささやかな希望をさしだす。ひとりは手品の魔法で笑顔をくばり、ひとりはプラネタリウムで “変わらないという安心” をくばる。
そして、もちろんテンペルとタットルも人間である。間違えながら、つまずきながら、生きている。けれど彼らには愛すべきものがある。夜空に守られ、父に愛され、村人や手品仲間と笑いあい、それらすべてをどうか守りとおしたいと願っているから、ふたりは迷いながらも、人々にささやかな希望を示しつづけるのだ。