Never Let Me Go
翻訳:土屋 政雄
初版:2006年04月 早川書房
持本:2008年08月 ハヤカワepi文庫
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キャシー・H は、優秀な介護人として 11 年以上を過ごしてきた。
生まれ育った施設・ヘールシャムでトミーやルースといった仲間達とともに過ごした時代を回想するかたちで明かされてゆく、介護の対象である「提供者」やヘールシャムの真実。
主人公キャシーが過去を振り返るかたちで綴られてゆく、彼女と彼女の周囲の人々の生活、人生、日々。
解説でも触れられている通り、予備知識がなければないほどこの本を読むことは素晴らしい読書になるだろう。そんな小説であるこの本について詳しい感想を語ることはできない。それは、永遠に心に残っていくだろうと思えるほどの大きな存在感と重みを与えてくれたこの小説に対する裏切り行為にあたると思う。
キャシーたちの日々やその存在そのものは、読み手によっていかようにもその姿を変えるのではないか。そして、どのように彼女らを受け止めるかは、読み手その人の思想、感情、考え、生き方、その他その人らしさと呼べるもののすべてを反映するのではないかと思える。
読み終えることでは終わらない物語が、この本のなかにはつまっている。ページを閉じたとき、きっと読み手のなかではなにかが始まる。
できればなにも考えず、ただ手にとってみて欲しい。ひたすら読み進めてみて欲しい。それをお願いすることしか、この本が与えてくれたものに対する恩返しの方法が思いつかない。
この本を知ったのは推薦でおすすめいただいたから。沙々雪で本をすすめて頂くとそのたびにうれしくなるけれど、やはりそのなかでも、この物語に出会うという幸運を与えてもらったことにただただ感謝の思いでいっぱいになるという本がある。『わたしを離さないで』はそういう 1 冊だった。