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『草の竪琴』 トルーマン・カポーティ
草の竪琴
The Grass Harp
訳 : 大澤 薫
1971年2月 新潮社
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 母を亡くし、父は自分の従姉にあたるドリーとヴェリーナに息子・コリンを預けた。その数日後、父もまた交通事故で他界した。
 繊細なコリンが、同じく繊細な人々と過ごす田舎町での日々。

 著されているのは心細くなるほどに繊細な人々で、ただじっと読み進めていた。
 美しい自然の風景が詩的な文体でつづられる中、社会に対して虚像を被ることをやめた人々が少年の視点を通して語られる。虚像を被ることをやめるというのは、人から求められる自分を演じるのをやめるということ。それは必ず衝突を引き起こす。
 人と世間との衝突が起こり、そして “普通” の枠からはずれた者同士がより添い、やがて社会自体とも折り合いをつけてゆく。その一つのできごとが、とても丹念な筆で書かれている。

 登場する人々は、それぞれに抱えるものがある。それは一概にやっかいごとや問題ではなく、愛情であったり、願いであったりする。それは、それぞれにとっては決して特別なものでも異常なものでもないのに、世間がそれを受け入れてくれないがため、ありのままでいられる場所がないがために、苦しんでいる。

 そんな人々が、樹の上の家で互いにより添って暮らそうとする姿は、切なくも哀しくもあるけれど、やはり幸せのひとつの形だと思う。だからこそ、この小説は全体にとても優しい。ひとときのことであったとしても、安らぐ場所を得たことは、必ずそれぞれにとって救いになるはずだ。

 語り手であった少年が旅立っていくシーンで終わるこの小説は、決して安直ではない、厳しくも優しい希望を示してくれているように思う。
2007.04.20