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『後巷説百物語』 京極 夏彦
後巷説百物語
初版:2003年11月 角川書店
持本:2007年04月 角川文庫
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 明治 10 年、与次郎ら 4 人は不審な事件が起こるたびに薬研堀の隠居老人・一白翁のもとを訪れる。
 一白翁はその昔、若かったころには諸国を巡って怪異譚を集めていたという人物で、興味深い話を多く知り、さらには様々な体験談も持つ無類の不思議話好きなのだ。
 6 つの短編を収録。

 京極夏彦の作品を読むのはこれが初めてで、読み出す前は京極作品は軽い口あたりの読み物だと思っていた。妖怪小説ということから京極作品をファンタジーの一種だと思っていたふしがあって、それが “軽い” と感じる原因だったのだと思う。
 読みやすい文体に軽妙な翁の語り口、はっきりとキャラクター付けされた登場人物。思っていたよりも骨組みのしっかりした小説だとは感じたけれど、それでもやはり娯楽小説だという感はぬぐいきれないまま読み進めていた。

 その手ごたえが変わったのは 4 編目の「山男」のあたり。読了後に知ったのだけれど、この百物語シリーズの前 2 作では若かった当時の翁が主人公だったということ。その翁がただの語り部の立場から動き出し、自らの思いを垣間見せる段になってようやく、この物語は動き出したと言えるのかもしれない。
 そして「山男」以降の「五位の光」、「風の神」と読み進めて感じたのは、翁の過去に対する切実な思いの強さだった。翁の過去とは、惹かれながらも決して並び立つことはかなわない又市という男とともにいた時間のこと。又市に対する翁の思いの強さが、この作品中の機軸となっているように思える。

 生きることに切実であった翁と、その翁が自分に似ていると感じた青年・与次郎。残念ながら百物語シリーズの 1 作目と 2 作目を飛ばして読んでしまった私は確かな感覚として実感できたわけではないけれど、この『後巷説百物語』は翁から与次郎へと、語り部の視点が受け継がれていく物語なのかなと感じる。
 やはり、シリーズを飛ばして読むなんてことはしてはいけないなと改めて実感した。折をみて、前 2 作と『前巷説百物語』も読んでみようと思う。
2008.11.03