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『ハミザベス』 栗田 有起
ハミザベス
2003年01月 集英社
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 死んだと聞かされていた父が、実は生きていたらしい。それを知ったのは本当に父が死んだと知らせをうけたときだった。
 遺産として 33 階にあるマンションの一室とハムスターを 1 匹受け取ったまちるは、母とのふたり暮らしから離れひとりマンションへと引っ越した。
 表題作のほか、ふたごのようにそっくりな姉妹の家族模様を描いた「豆姉妹」も収録。

 おもしろい。小説を読むのは楽しいことなんだというのは読書家にとってはとてもシンプルな事実だ。だけど、シンプルすぎてときどき忘れそうになる。感性ではなく頭でっかちに本を読んでしまいそうになる。そんなとき、「本を読む楽しさってまさにこれだ!」と思い出させてくれる、ある意味正統派な純然たる小説。

 ああ、私はこういうお話や雰囲気が好きだったんだと、忘れていたわけでもないはずのことを思い出させてくれる。私の心のふちを諭すでなく教えるでなく、ただ正確になぞって示してみせてくれる。
 そうして私は、この小説を読むことで私という存在のかたちをあますところなく知ることができる。あてつけがましくもおしつけがましくもない、ただなぞってみせてゆくだけのこの存在はなんて心地いいんだろう。

 この 1 冊を読み終えると、どこにも無理やひずみがないことがわかる。これを伝えなきゃとか、うまくまとめなきゃとか、登場人物の想いを表さなきゃとか、そういう気負いが一切ない。もしかしたら作者にはあるのかもしれないけれど、それを読み手にまで伝染させて読書の負担にさせるようなことは決してない。

 だから最初から最後までひっかかる部分もなくすんなりと読めてしまう。すんなり読めてしまうくせに、読み終えてみると胸のうちにはいつのまにか大きななにかが置かれている。これはなんだろうと眺めてみてもいまいちわからない。たしかに存在してるのに、その正体はちっとも見えない。
 わかっているのは『ハミザベス』を読んだ結果として生まれてきたものだということと、正体不明のわりにはなんだか心地いいということ。抱き枕にして眠ってみたり、背もたれにして読書してみたくなるような、不思議な親近感を自分が持っているということ。

 きっとこれは、気がつけばなくなっているだろう。けれどそれは消えてしまうのではない。いつの間にか、私自身のなかに取り込まれていくにちがいない。
 なにかを思い出したくなったら、きっとまた私はこの本を開くだろう。
2007.08.05