1975年11月 講談社 (絶版)
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孤児である飛鳥は、迷子になった幼い日に祐也という青年と出会った。数年後、孤児院からのもらわれ先で不当な仕打ちをうけ続けた飛鳥は、ついにその屋敷を飛び出した。そして、初めて出会った公園で裕也と再会し、飛鳥はそのまま祐也の元で暮すことになる。
こんな愛が存在するのかという驚きが、読み終わっての率直な感想。
飛鳥が祐也さんに向ける苦しさもやるせなさも喜びもすべて内包した愛と、祐也さんが飛鳥にいだく足がすくんでしまいそうなほどに深く、やさしさをぎゅっと凝縮させた愛。なんて小説に出逢ってしまったんだろう、と思った。
5 年以上前に、とあるイラストサイトでおすすめされているのを見たのが『雪の断章』を知ったきっかけ。当時は絶版になっていたこともあって読むことはなかったけれど、タイトルだけはずっと覚えていた。
長いあいだ無意識に気にかけていたこの本を読んだきっかけは、推薦でおすすめされたから。私はこの本をおすすめしてくれた人に、いまも深く感謝している。
雪の街・札幌で暮らす飛鳥は、雪を愛している。私はそんな飛鳥に心地よい親近感を持った。私のなかで、雪というのは好きというだけでは語れない特殊な位置を占めている。だから、真摯に雪を受けとめ、雪と語らう飛鳥に近しさを覚えたのだと思う。
そしてまた、祐也さんは “理想の人” だった。理想のおとなであり、男性であり、子どもの守護者だと感じた。こんな人に現実で出会うことはまずないだろう。
読み終えてからしばらく経った今、祐也さんの存在が私のなかにしっかりと根づいていることを確かに感じている。私はきっと、ことあるごとに祐也さんの名前と存在を思いだすだろう。この人に顔向けできないような恥ずかしいことはすまいという指針として、この人がいる場所を見上げていようというこころざしとして。
『雪の断章』は、単なる恋愛小説ではなく、サスペンスでもなく、成長物語でもない。人と、人の住む社会をあふれんばかりの情感で描いている。
読み終えてからしばらく、しめくくりの最後の 1 行から目が離せなかった。だれにでも、一度は読んでもらいたい。