2000年07月 早川書房
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地球の衛星軌道上をめぐり続ける博物館、<アフロディーテ>。データベース・コンピュータに直接接続された学芸員は、検索したい対象を思い浮かべるだけでいい。
データベース・コンピュー <ムネーモシュネー> に直接接続できる学芸員・孝弘と、博物館惑星に収められる物品たちの物語を 9 つの短編でつづる。
私は美しい文体が好きで、本を読むときはストーリーと同時に、どんな文体で書かれているかというところもずいぶんと気にする。けれど、『永遠の森』に関してはちっとも文体に気を留めないまま、ただストーリーだけを追っていた。それだけ、ただひとつの物語として面白かった。
<ムネーモシュネー> を持つ孝弘が、どうにもうらやましくてならない。求めるものを与えてくれる存在が、いつだってただ後ろに控えてくれている。その絶対的な安心感。
けれど、<ムネーモシュネー> が万能であればあるほど、孝弘自身は自分が自分であることの価値を見失っていく。美を愛し求めていたはずが、美を分析しようとばかりする自分になっている。その、理想から遠のいていく自分に気付き、向き合うことが書かれている 1 冊。
美術品や芸術品に関する、ロマンティックで純粋なエピソードの数々が登場するけれど、そのまっすぐさと対照的であるからこそ、純粋なだけではいられなくなってしまった孝弘のジレンマやもどかしさが、あたたかい視点で見えてくる。
最後の最後に登場する孝弘の妻・美和子は孝弘にとっての救いの女神のようで、なんだか私まで美和子に救われたような気がする。
とっても心地良い小説だった。解説にも書いてあったけれど、ぜひとも続編が出て欲しいと願いつつ、機会を見つけて読み返したい 1 冊になった。