2004年04月 文藝春秋
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自殺した裕一は、気づけば断崖絶壁を登っていた。その断崖の頂上で 2 人の男と 1 人の女性と出会い、そこへとつぜん神が現れた。神は、四人に天国へ行くための条件をつきつける。
「七週間のうちに、100 人の自殺志願者の命を助けろ」
地上に舞い戻った 4 人は、出会った自殺志願者のうち、ひとりの自殺者も出すまいと奔走する。
まず最初に言いたいのは、この小説は重くないということ。自殺に限らず、“死” というテーマを扱おうとすると、とかくシリアスで圧迫感にあふれた作品に仕立てがちだ。けれど、この小説はそうじゃない。軽妙なせりふまわしも、爽快なシーンも、吹き出して笑ってしまうおかしさもたくさんある。
シリアスな題材を愚直なほどリアルに、重苦しさそのままに描くことだって、確かに必要だ。けれど、重苦しさに耐え切れない人はたくさんいるのだ。“自殺 ” という思考に取り付かれた人々は、皆つかれきっている。つかれた心にとどめをさすようなつらい小説だけじゃ、知識や見識は広まっても救いにはならない。
重いテーマを扱うということと、重苦しい雰囲気の作品をつくるということを混同しちゃいけない。この小説はライトな質感だけど、けっして軽々しく自殺というテーマを扱ってはいない。
さまざまな理由で自殺を選ぼうとする人々が、この小説のなかには現れる。そのなかでも、私はひとりの女性にひどくシンクロしてしまった。救助隊の紅一点、美晴と似た理由で死を選ぼうとした女性だ。私はこの女性が救われるシーンで、じんわりと涙を流した。
他の誰かがこのシーンを読んでも、泣くことはないかもしれない。けれど、その代わり、私が泣かなかったどこかのシーンでその人は泣くんじゃないか。そう思った。
画一的な感動シーンなんて、本当はあるはずがないのだ。人はそれぞれにまったく違う人生を持っているのだから、誰もが心動く物語なんて存在するわけがない。
人が人を救う。余計な複線や面倒なトリックのない、一から始まって十で終わるようなシンプルな筋立てだ。だからこそ、描かれる人々は読み手の心の中にすんなりと入ってくる。
なんだか最近しんどいな、という人に。あるいは、つらかった時を乗り切った人が、がんばった自分をふりかえってほめてあげるために。