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『人間失格』 太宰 治
人間失格
初版:1948年07月 筑摩書房
蔵本:1952年10月 新潮文庫
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 「恥の多い生涯を送って来ました。」
 そう始められる 3 つの手記で綴られるひとりの男の生涯。
 人の顔色をうかがい自分の意思で行動することができない葉蔵は、酒にも女にもおぼれ続け、しまいには自らに「人間失格」の刻印を打つ。

 太宰を読むのはこれで 3 冊目で、そのなかでは一番読みやすかったように思う。

 人間として上手に生きられないというのは深く理解できる感覚だ。だれだってきっとそうだろう。
 この 1 編の小説のなかで、葉造が自分は人間を理解できない、自分は周囲の者とは違うと深く思い知らされる場面はいくつも出てくる。そのなかでもっとも印象深く、そして共感したのは堀木の家で堀木の老母への態度を目の当たりにしたときのものだ。
 自分と同じようになんの区別もなく生きているだけと思っていた者が実は分別を持っていた、のべつまく無しに道を踏み外しているのではない、理性的に限度をわきまえた上でだらしなく生きているだけだった、自分のようにほんとうになにもせず逃げているのではなかった。
 「こいつは自分の同類だ」というしなだれかかりを鋭くはねのけられるという、底なしの峡谷のような孤独。

 小説の登場人物に対して、時には自分に対しても、生き物として欠陥があると感じることがある。それは、太宰の書いた「人間、失格」ということばとはまたちがうけれど、似た次元にあるような感じがする。

 ただ、年月が経てば、人はそれでも生きるのだと否応なしに知ってしまう。できればそれを知る前、小学生や中学生のころに、読んでおきたい本だった。
2008.08.08