初版:2003年09月 国書刊行会
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列車の到着を待つ時間潰しのために入った画廊で、わたしは 3 枚組みの銅版画を見つけた。
「画題をお知りになりたくはありませんか」
――そう声をかけてきた画廊の店主は、版画の解釈を語りだした。
5 つの短編でつづられる連作長篇。
丹念に、一文一文をかみしめながら読みたくなる物語だった。5 つの短編からなる連作長篇だけれど、一読しただけの今はまだそれぞれの物語を、そのつながりを消化しきれていない。
決してきらびやかではない、じっとりとした灯りを持った文体で、どうしてもさらさらと読み進めることはできずずいぶん時間をかけた。まず一文を読んで、情景を思い浮かべてもう 1 度読み返す、そんな読み方をしていた。
落ち葉のなかに隠蔽される人々、痘瘡、ゴースト、主人達と使用人の対立関係。陰惨と言っても過言ではない舞台の上で、完璧な三人称で語られる物語。
それらに対して、感想をことばにすることがどうしてもできない。ただ、私は読み始めたときからずっと、闇で終わる物語だと思っていた。冬が舞台の物語だからかもしれない。けれど、決して闇だけの物語ではないと、読み終わった今確かに言える。
帯にあった「人形と冬眠者と聖フランチェスコの物語」というコピーを、ここに引用したい。とても正しく、この本を表していると思う。
とても贅沢な本を読んだと思う。本という世界の、今まで知ることのなかった新たな一隅をまた知った。