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『大地の子』 山崎 豊子
大地の子
1991年1月 - 4月 文藝春秋
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 引き揚げで取り残され、敗戦直後の中国で生きた陸一心 (ルーイーシン)。
 文化大革命の嵐が吹き荒れるなか労働改造所へ送られたが、やがて日中共同の製鉄所建設計画に携わることになった。
 育った中国と実の肉親がいる日本の間で、陸一心は揺れる。

 歴史に関しては浅薄な知識しかない私は、歴史背景だけでもと思ってインターネットで調べてから、本格的に読み始めた。こういうとき、社会科の授業は真面目に受けておくべきだったといつも後悔する。

 2 巻のなかばを過ぎたあたりで、陸一心を追っていた物語が次第に広がり、中国や日本という国々が、舞台としてでなく登場人物のように生きてきている。身につまされながら読みすすめた。
 2 巻を終え巻数としては折り返し地点だけれど、物語はまだまだこれからだと感じていた。運命と呼ぶしかないような流れのなか、一心がどう変わり、なにを選ぶのか、じっと追っていきたいと思った。

 記憶にある限り、大河小説というのを読んだのはこれが初めてだったのだけれど、史実を調べ上げて書かれているということを差し引いても、文字だけでこんなにも広い世界を描けるのかと、改めて小説という媒体の力を見せられた。

 日本人であるということが、あらゆる面でハンディとなるその場所で、ねじれることなく生きていく一心のたくましさが、涙が出るほどに愛しく、またとても嬉しくなった。そして同時に、戦争孤児のことをほとんど知らないまま安穏と暮らしている自分を思うと、たまらなく申し訳なくもなる。

 自らを “大地の子” と呼んだ一心は、“国” という枠を超えた、とても大きな視線を持ったと思う。愛国心とはまた違う、自分を育んだ大地を愛するという心。そこに人種はないし、優劣もない。大地を愛するということは、そこに暮らす人々を、自らも含めて愛していくということにつながると思う。
 厳しい思いをしてきた人は、強さと優しさを持てると、そんなことを改めて知った。
2007.03.26