2005年 日本
監督 : 行定勲
キャスト : 妻夫木聡 / 竹内結子 / 高岡蒼佑 / スウィニット・パンジャマワット / アヌチット・サパンポン / 及川光博 / 田口トモロヲ / 高畑淳子 / 石丸謙二郎 / 宮崎美子 / 山本圭 / 真野響子 / 榎木孝明 / 大楠道代 / 岸田今日子 / 若尾文子
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自分の感情に気がつけない侯爵家の子息・清顕と、自分の想いをまっすぐに見据え続ける伯爵家の令嬢・聡子。幼馴染であるふたりの恋をえがく、三島由紀夫原作の恋愛映画。
登場人物の誰も彼もが身勝手だ。清顕と聡子はもちろんのこと、それぞれの両親も周りの人々も、自らの保身や願望以外のことは考えていない。
その魑魅魍魎のような人間たちのなかで、けれどもっとも鼻につくのは主人公である清顕だ。この映画は悲劇だ。清顕はその状況を打破することができた唯一の人物だった。彼の手は伸ばせば聡子に届くところにあった。
けれど彼はそれをしなかった。なぜか? 幼いからだ。清顕の友人である本多はそれを作中でそれをはっきりと指摘し糾弾している。清顕には自分の感情を認め向き合うという強さがない。
清顕の自らへの鈍感さと幼稚さが、周囲を狂わせ聡子を追い詰める。清顕がようやっと動き出すのはすべてが手遅れになってからだ。それでも周りを見ずに無理を通し、その後始末を自らつけることもできない。
そして、そんな身勝手な男の完璧な受け皿になるのが聡子という女なのだ。
清顕に翻弄されながら幾年を過ごしても聡子の気持ちは清顕からゆるがない。まずこれだけでも聡子という女の恐ろしさがわかる。ほんの子どもの頃からの想いをずっと胸に秘めつづけ待ちつづけるなんて、それはもう狂気の領域だ。
清顕と自分の清顕への想いを守るためならば方法を選ばない。どんなものも犠牲にする。聡子というのは女以外にはなれない生き物だろう。娘にも、そして母にもなれないだろう。彼女は両親も子どもも捨てることができてしまう女だ。
女は怖い。覚悟を決めることもその覚悟を押し通すこともできてしまう。
男は聡子のような女に愛されたらどう思うんだろう。幸せだと感じるんだろうか。怖いとは思わないのか。私が男だとしたら、あんな愛情に耐える自信はない。自分以外のものを一切見ない人間を相手どって生きていくことはできない。
一貫して、聡子はつねに清顕を包み込むように存在している。清顕は聡子に守られていることにすら気がつかない。ふたりは逢瀬を重ねながら根源的なところですれ違っている。
そんな彼らは、それでも最後に幸福を得るという。本人がそうと言うものを周りが否定することはできない。けれど、私が同じものを得て幸福だと感じることはないだろうとも思う。
ちなみに、私は三島由紀夫の作品を一冊も読んだことがない。面白そうだと思ったことがないからだ。読んだらきっとその鼻持ちならさに耐えられないんじゃないかとも思っている。だから、まず手に取る気になれない。いつかは読むだろうけれど、それは私がもっとおおらかな気持ちで男という生き物を見られるようになってからだ。