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『打ちのめされるようなすごい本』 米原 万里
初版:2006年10月 文藝春秋
蔵本:2009年5月 文春文庫
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 ロシア語の通訳者でもある米原万里さんによって書かれた書評集。週刊文春に連載されていた「私の読書日記」と 1995 年から 2005 年にかけて各紙誌に掲載された書評による二部構成。

 タイトルにまず惹かれた。この著者は「すごい本は人を打ちのめすのだ」ということを知っている。それだけで、著者が本好き読書好きであることがわかる。単行本が出たときから気になっていて、文庫化を機会にようやく手にとった。

 書評の良し悪しを確認するには自分が読んだことのある本の書評を読むのが一番良いと思っている。けれど、私が読むのは小説ばかりで、本書に収録されている書評の対象のほとんどは小説ではない。書店で目次にざっと目を通してみても読んだことのある本は一冊もなかった。
 それでも姫野カオルコの名前を見つけて、『受難』の書評を読んでみた。一頁半にも満たない書評を読み終えてすぐ、これは買わなきゃと思ってすぐさまレジに持っていった。

 書評とは少し違うけれど、文庫本の巻末につく解説を読むたびに私が常々思ってきたのは小説家以外が書く小説の解説はつまらないということだ。つまらないだけでなく不快感を感じることさえしばしばある。それがなにに起因するのか私はまだ言葉にできていないけれど、経験則から、小説家以外による解説・書評のたぐいは読みたいという気持ちにならない。
 そんな私にとって、通訳を本業とする米原さんの書く書評がこんなにも心地よく、そして書評対象の本を「読みたい!」と思わせる力に満ちていることは驚きだった。

 書評は、肝心の部分はこれから読む人のために伏せたままその本の本質をわしづかみにして魅力を伝える。とてもシンプルな仕事だ。だけどそれが難しい。その難しいことを、米原万里さんは破格の読書量と知識の豊富さと本に向ける情熱で成し遂げてしまう。
 米原さんの書評を読めば読むほど、米原さんが本を愛し本の世界を愛していることがわかる。「文庫版のための解説」を書いた丸谷才一さんは本の世界を大星雲と例えている。今の私に見えているのはこの大星雲の端の端のさらに端のあたりだけだけれど、米原さんはこの大星雲を広く見渡し、そして星々の群れを丸ごと愛していたんだろうなと思う。そんな本に対する愛情深さが、私が感じている解説・書評を書くときに小説家だけが持つ独特の視点の持ち方に代わって、米原さんの書評に魅力を与えているんだろう。
2009.09.14