2006年 日本
監督 : 三池崇史
キャスト : 松田龍平 / 安藤政信 / 窪塚俊介 / 渋川清彦 / 遠藤憲一 / 金森穣 / 石橋蓮司 / 石橋凌
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それぞれ別件の殺人事件で偶然同日に刑務所に収容された凶暴な香月とおとなしい有吉。対極の位置にいるふたりは互いに反応し合っていく。やがて彼らは、ひとつの殺人事件の被害者と加害者になった。
刑事たちの調査から囚人たちや所長によるいくつもの証言が積み重なり、事件はベールを剥がれていく。
この映画は全編を通してすべてが幻想的に描かれている。刑務所も収容房の様子も現実から浮遊して存在している。そうやって舞台を抽象化することで、囚人たち=青年たちを浮かび立たせている。観終わった後には、映画よりも前衛演劇を観た時のような脳の麻痺があった。
けれど間違えてはいけない。この作品は現代の日本に起こったこととして書かれている。それは時折さし挟まれる現代の雑踏の映像からわかる。香月を凶暴に、そして哀しいほど弱く育たせたのも、有吉を無感動でおとなしい青年に押し込めたのも、この現代日本だ。
しかしこんな風に大仰に言ったところで、この “現代日本のゆがみ” なんていうものはこの映画においては脇役的要素のひとつでしかない。この映画は憎悪も哀しみも現代日本のゆがみも多くのものを内包している。それでも、観客が真っ先に感じるのは香月と有吉が互いに抱いた愛だ。
社会の最底辺で生まれ育ち服役を重ねる香月と、過剰正当防衛で初めて刑務所へ入った有吉。性格、肉体的な強さ、精神的な弱さ、向かう方向。ふたりはすべてが対極にある。そんなふたりが、だからこそ惹かれ合っていく。
ふたりの会話はとても少ない。その少ないシーンから、誰が誰に焦がれているのか、どんな感情を抱いているのかがはっきりと明らかになる。そこにあるのは狂おしい愛と慈しみの愛だ。そんなふたりの愛のかたちだ。
互いに食い違う愛のかたちが悲劇を生み出すけれど、それでもふたりは出会ったことを後悔はしないだろう。出会ったことでそれぞれの心のなかに生まれたのは何ものにも換えられないものだからだ。
凶暴なばかりの香月が弱さを見せたのは有吉に対してだけであり、無表情をくずさない有吉が無邪気な顔を見せるのは香月にだけだ。
私はこの映画が大好きだ。やるせない青年たちの姿が心の奥底に迫ってくる。世界のなかからこぼれ落ち、それでも生きている青年たちの強さと弱さが胸に沁みる。