初版:2004年2月 電撃文庫
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街が塩に埋もれる塩害。崩壊した東京の片隅で真奈と秋庭は肩を寄せ合い暮らしていた。ひっそりと日々を過ごしていたふたりの元へやって来た唐突な訪問者が、ふたりと世界の運命を変える。
男と少女の不器用で純粋な絆が、世界を救う。
有川さんは生粋の恋愛小説家だとしみじみ思う。『塩の街』は『空の中』『海の底』と合わせて有川作品のなかでも「自衛隊三部作」と呼ばれる小説だ。けれど、「自衛隊」の名を冠してはいてもこのストーリーの主題は決して戦闘ではない。『塩の街』はひとりの男とひとりの少女が主人公の純粋な恋愛物語だ。
人が塩に変わる現象に見舞われ都市としての機能が成り立たなくなった東京に、真奈と秋庭は暮らしている。優しさ故のもろさと強い心の芯を持った真奈は、自分の側で起こる悲しい出来事を真正面から受け止めて、苦しみながらも逃げようとしない。秋庭はその真奈の不器用さに時に苛立ちながら、彼女を全力で支えようとする。また、そうすることで秋庭自身が自分の立ち場所を得てもいる。ふたりは互いに支え合いながら存在している。
そうやって互いを救いたがり支えたがっているふたりが、ただ相手のために自分ができることにひたすら全力を尽くし続ける。それが世界を丸ごと救ってしまう。これはそういう物語だ。壊れた世界のなかでひたすら互いのことだけを考えていたふたりのその想いが、世界を救う物語だ。
真奈の不器用に本質に立ち向かう強さ、自分を後回しにばかりしてしまう秋庭の身勝手さ、登場人物のだれもが人間くさく小さな存在で、それでもそんな人間のささやかな恋が、世界すら救ってしまう。この小説はそんな希望のひとつのかたちだ。