2005年 日本
監督 : 杉山慶一
キャスト : 勝地涼 / 宮崎あおい / 布川敏和 / 遠藤憲一 / 大杉漣 / 古手川祐子 / 濱口優
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森が意思を持ち人に敵意を持った時代。森との共存の道を探る中立都市に暮らすアギトは、ある日過去から来た少女トゥーラと出逢った。彼女の目覚めが、アギトの世界に大きな変化をもたらしていく――。
緒方剛志の描いた DVD のパッケージに惹かれ、キャラクターデザインを緒方さんがやっていると知って観てみた。あらすじも舞台も知らないまま観始めて期待もなにもしていなかったのだけど、ラストシーン近くで不思議と涙が浮かんできた作品だった。
人は忘れることができない。これはそういう物語なのだと思う。シュナックは自分の犯した過去を忘れることができないし、トゥーラは過去の世界を忘れることができない。だから現在を否定する。
森が意思を持ち人に牙を剥くアギトたちの世界は、私から見ても確かに異形の世界だ。私がトゥーラのようにこの世界に放り込まれたら、割れた月を見た瞬間に泣いてしまうだろうと思った。トゥーラの生きていた世界 (≒現代) と比べて、アギトたちの世界はあまりにもかけ離れている。
シュナックもトゥーラも、自分たちが生きていた過去の世界に必死で手を伸ばす。昔に戻った方がアギトたちも幸せなはずだからと言うけれど、それは言い訳でしかない。ふたりは自分が無くしたものを忘れられず手のなかに取り戻したいに過ぎない。
過去ばかりを追うトゥーラはアギトたちの世界を受け入れられない。異界で孤独を抱えるトゥーラを責めることはとてもできないけれど、トゥーラが過去を追っておろかな決断をしたことも否定できない。
そんなトゥーラに、自分の住む世界を否定し壊そうとするトゥーラに、アギトが言うのはたったひとつの言葉だ。「帰ろう」とアギトはただ繰り返す。アギトにとってトゥーラはもう同じ村に住む同胞のひとりなのだ。このアギトのためらいのない思考が一直線にトゥーラを救いに行く。
まずオープニング映像に引き込まれた。せつなさと迫力を併せ持った映像だった。あのためだけにでも、映画館で観ればよかったと思う。
そしてラスト近くのシュナックのせりふでなぜか泣けてきた。森なくして人はないという構図が、とても自然で、そして美しいものに思えてきた。
ところどころ「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」を思い出させるシーンがあった。総じてジブリ的なアニメだと思う。決してオリジナリティあふれる作品とは呼べないと思うのだけれど、それでもどこか心に迫る映画だった。それは、森というものが持つ力なのかもしれない。題材選びに成功した映画なんだろう。
人工的な変化でも、それは生き物の進化のひとつと呼んでいいのかもしれない。そんなことを思った。