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「NINE」
Nine
2009年  アメリカ / イタリア
監督 : ロブ・マーシャル
キャスト : ダニエル・デイ=ルイス / マリオン・コティヤール / ペネロペ・クルス / ジュディ・デンチ / ニコール・キッドマン / ケイト・ハドソン
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  人気映画監督のグイドが評価されるのは初期の作品ばかり。そんな彼が渾身の力を込めて放つはずの最新作は、発表記者会見を前にして脚本が 1 ページも書かれていない。
 脚本を書けないまま女たちへの逃避を繰り返すグイドに寄り添い、あるいは縛りつける 7 人の女たち。

 挿入される数々のダンスシーンは圧巻の一言。「シカゴ」のダンスシーンが好きでダンスシーンだけを何回も観返した。「NINE」はそんな「シカゴ」を軽々と超えていった。

 どのダンスシーンも脳裏に焼きついているけれど、ダンスだけを見るなら娼婦サラギーナの「BE ITALIAN」が目と耳に残り、ストーリーの流れを汲んだ上で言うならルイザの「TAKE IT ALL」が心に残っている。
 ダンスシーンに関しては、とにかく見てくれと言うしかない。絢爛な舞台と衣装、そして女たちの体がたまらなく美しい。

 そして、「シカゴ」のストーリーに今ひとつ乗り切れなかった私にとって、登場人物たちの人間くささを気取らず描いたという点においても「NINE」は「シカゴ」を超えた。

 グイドという男は美しい女たちに囲まれながら、その手に何もつかむことができない。迫り来る映画製作にかかわる数々の締め切りに追い立てられるグイドにとって女は逃避の場所でしかないのだ。
 けれどその女たちこそがグイドを追い詰めるもうひとつの要素でもある。自ら八方塞りの迷路に落ちていくグイドはまったく愚かな男だ。

 女という生き物は怪物だ。グイドをとりまく彼女たちを見ているとつくづくそう思う。けれどグイドはそんな女たちから離れられない。グイドはそうやって彼を求める女たちにゆっくりとつぶされていく。

 それでも、すべてを失ったグイドは最後には映画に回帰していくのだ。映画を撮れなくなった映画監督が映画から逃げ妻から逃げ、現実のすべてから逃げ、凋落の後に身ひとつで映画にもう一度向き合う。「NINE」はそんな、没落と再生の物語だ。
 グイドと女たちに対する少しの呆れと深い好感を持って観れる映画だと思う。
2010.04.23