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「ヒックとドラゴン」
How to Train Your Dragon
2010 年 アメリカ
監督 : ディーン・デュボア / クリス・サンダース
キャスト : ジェイ・バルチェル / ジェラルド・バトラー / クレイグ・ファーガソン / アメリカ・フェレーラ / ジョナ・ヒル / クリストファー・ミンツ=プラッセ
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 面白かった。
 小難しい設定はなし、度肝を抜かれるような巧妙な仕掛けもなし。子供が観て無理なく理解できるストーリー。そして、ていねいに描写されたキャラクターたちそれぞれの心。すべてが合わさって、わくわくする面白さを観客に届けてくれる。

 バイキングのリーダーを父に持ちながらひ弱で問題児扱いばかりされるヒックと、尾翼を無くして飛べなくなったドラゴン・トゥース。このひとりと一匹の交流がこの映画の軸になる。
 子供と動物の交流というのはもう何度も扱われてきたテーマだけど、私がこのふたりの関係について特別好きなのは、ふたりの協力関係の始まりがあくまでもギブ&テイクであるところ。
 トゥースがヒックを乗せることを認めたのは、ヒックが作り、トゥースの背に乗って操る尾翼なしには空を飛べなくなってしまったからに過ぎない。一方ヒックは、トゥースを利用してバイキングの仲間たちに認められることを考えている。ふたりの繋がりの最初にあるのは「心の絆」や「奇跡の交流」なんていうふわふわとした絵空事ではなくて、利害の一致から来るやむにやまれぬ共存関係という現実に過ぎない。
 そして、そうやって始まったふたりだからこそ、その後ゆっくりと少しずつ育まれていく信頼関係に観客の気持ちが動かされるのだ。

 ヒックとトゥースの関係が伝播して、ヒックの周囲に変化をもたらしていく。立派なバイキングになって龍と戦って欲しいと強く願うヒックの父や、ヒックを小馬鹿にするヒックと同じ年代の子供たち。
 ドラゴンという生き物に対する感情が食い違う父子のやり取りには胸が痛む言葉も飛び出す。ヒックの父にとっては、ドラゴンは多くの同胞の命を奪っていった憎むべき仇に過ぎないからだ。トゥースという「共闘できるドラゴン」の存在を柔軟に受け入れていく対照的な子供たちの姿もあいまって、父に理解してもらえないヒックのつらさが際立ってくる。
 けれどそこでつまずいたままでいないのが、ヒックらしい強さなのだ。「周囲に否定されても決して自分を諦めない強さ」が、ヒックの持っている一番の武器だ。その強さで、ヒックは人間もドラゴンも、変えていく。

 設定やストーリーに凝り過ぎず、ある程度王道を踏襲した作品の完成度は、人物描写のうまさに大きく左右されると思う。その点、ヒックとドラゴンは子供にわかりやすく大人に深く、観た人を素直に楽しませる良作だ。
2010.10.15