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『境界性パーソナリティ障害』 岡田 尊司
初版:2009 年 5 月 幻冬舎新書
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 境界性パーソナリティ障害の「境界性(ボーダーライン)」は、最初「神経症と精神病の境界性(ボーダーライン)」という意味で使われたらしい。境界性パーソナリティ障害を持つ人々は、ごく普通の人のように生活を送っている時期もあれば、精神病者のような様相を呈す時もある。
 以下の 9 項目のうち 5 つ以上が当てはまることが、境界性パーソナリティ障害と診断される要件となる。

1、見捨てられることに対する不安が強い
2、対人関係が両極端で不安定である
3、めまぐるしく気分が変わる
4、怒りや感情のブレーキが利かない
5、自殺企図や自傷行為を繰り返す
6、自己を損なう行為に耽溺する
7、心に絶えず空虚感を抱いている
8、自分が何者であるかがわからない
9、一時的に記憶が飛んだり、精神病に似た状態になる

 精神病とちがい、境界性パーソナリティ障害には自覚があるという。
 この本は境界性パーソナリティ障害がどのようなものであるかの説明に始まり、症例、原因、性格ごとの症状の違い、改善法、回復法が順に書かれている。また、周囲の人間がどのように接して行くべきかという対処法が多く出ている。新書なので深く掘り下げられていない部分もあるのだろうと思うけれど、その分一通り把握できるようになっている。
自身で心当たりがあるという方、身近に上記の 9 項目に当てはまる人物がいるという方には、ぜひ読んでみて欲しい。

 境界性パーソナリティ障害の根本には、幼少期に充分な愛情を与えられなかった、虐待を受けた、自己を身近な人物(特に親)から否定されて育ったなどの経験がある。
 親に押しつけられたアイデンティティを脱ぎ去り、自分自身の手で自分を作り直す過程で現れる症状が境界性パーソナリティ障害だという。この過程を乗り越えた先には、苦しい嵐の時期を自身の力と変えた、成熟した魅力的な人格がある。繰り返しそう説くこの本は、境界性パーソナリティ障害で苦しむ本人や周囲の人々にとって、前向きな気持ちを与えてくれるものではないかなと思う。
2010.11.08