本 > その他
『千 長夜の契』 岡田屋 鉄蔵
千 長夜の契
初版:2010 年 9 月 白泉社
>> Amazon.co.jp

 幼く見えるようでありながら妖しげな容貌を持つ座頭の千載と、彼に魅了され同道する草薙。一話完結で語られる、ふたりの道行きである。

 ふたりが出会うのは、我が身で購ってでも叶えて欲しい、生涯最後の願いを持つものたちだ。その願いについて、千載は作中で「手前の魂を喰われてでも叶えたい望み それは大抵自分以外の誰かの為 だったりする」と述懐する。
 千載と草薙が出会うのは、自分以外の誰かのため、愛するもののために、自分の存在自体を差し出そうという人間たちなのだ。悲しみもある、悔しさもある、恨みもある。けれどそれ以上に、たったひとり誰かへの愛のために、死よりも深い沈黙に落ちようという者たちだ。その姿には、ただ言葉もなく胸がつまる。

 そして、そんな人々の願いを受け取るのが千載だ。私は千載のキャラクターが大好きだ。目が見えないことを筆頭に、彼は人としてのもろもろを持たない。飄々として何にもとらわれず、動物がただ眠りただ食べるように、課せられたままの有り様でただ生き続けている。
 そんな千載が、草薙に対してだけは時折人間らしい表情を覗かせる。千載は、特別心を閉ざして生きているようには見えない。ただ、誰とも深く踏み込まずにいるのが彼にとっての自然だったのだろう。そこに入り込んだのが、そしてそれを千載が許した相手が、草薙だ。
 ふたりの関係はどうとも言いようがない。ただ、互いに相手を気に入っているのだと、それ以外に明確なつながりはない。

 江戸時代のようでありながら、あやかしの存在も受け入れられている、少し非現実感も漂う世界が舞台である。いわゆるボーイズ・ラブに属する漫画なので、男性同士の絡みがある。苦手な人にはおすすめできないけれど、BL というジャンルに押し込めるのはもったいないコミックだ。
2010.11.16