メモ
2007.04.11
 「本格小説」、読み終えました。読了したのは昨日の夜だというのに、まだ頭は物語の世界を抜け出せないまま、さまよっています。

 人は、人によって形成されます。人に囲まれ、人と語り合い、人を見つめながら育つから、ヒトというただの生物は人になるのです。東太郎という人物、彼にとって、真実自分の周りに存在していたのは、きっとよう子ちゃんだけだったんでしょう。ひとりしか存在しないのなら、その人が自分にとってのすべてにならざるを得ません。そうやって、彼は人になったのでしょう。
 自分にとって唯一の人、その人にとって自分は唯一ではない。それを、不幸と思うのも、なじるのも、嘆くのも、東太郎にできることではありません。それは、多くの人を持つ人間だけができることです。たったひとりしかいなければ、歯を食いしばってでも、感情を殺してでも、ただ想い、側に居ることを願い続けるしかできない。そうしなければ、人でいられない。その凄まじさは、想像で足るものではないと思います。そして、その凄まじさをもっとも近いところで見守り続け、秘め続けた冨美子がたった一度語った物語。けれど語り部である彼女ですら、傍観者ではない。

 今は失われた古い時の中を生きていた、幾人分もの生涯を見せつけられ、圧倒されて、もう少しだけ、この物語の世界にひたっていることになりそうです。
 おすすめ、ありがとうございました。こんなにも存在感に圧された小説は、久しぶりです。