メモ
2007.08.25
 ここ三日間をつかって、「邂逅の森」を読了しました。直木賞を受賞するのは底力のある作品が多いですが、それにしてもがっしりとした骨太な小説で、なんとも心地よい世界を見せてもらいました。大正から昭和にかけてを、マタギと名乗る狩人として生きたひとりの男の半生です。決して実体験はできない人生を垣間見られる、小説の最たる面白みのひとつを心から感じました。

 ひとことやふたことで説明できる内容ではないので、この空気を感じるためにはなにしろ読んでください、と言うしかない。しかしそのなかでも私が心底気に入ってしまったのは、主人公である富治と、彼がかつて愛し合った女性である文枝が再会したシーン。たぶんこの場面は、女性が書くととてもうすっぺらくなってしまうのではないかと思う。あの流れを男性が書くからこそ、ふたりの心の動きの機微も、なんとも言えないあの面白みも、はっきりと表れるのだ。