メモ
2008.05.27
 谷崎潤一郎の「刺青・秘密」を読了。これは、数年前に家族で行った旅館の書斎で刺青だけを読んでいて、いつかきちんと全編読了しようと思っていた短編集。
 その旅館にあったのはもう何十年も前に発行されたような古びた大型の装丁本で、紙のケースに収められたものだった。とても雰囲気のある旅館で、今もはっきりと覚えている。一泊であわただしく通り過ぎるよりも、じっくりと何泊も湯治に行くような温泉場だった。

 太宰を読んでいると、ちらりほらりと身に覚えのある感覚がでてくるけれど、谷崎でも同じことがある。ただ、それらの傾向はずいぶんちがう。ごく単純にいうと、太宰を読んでいると自分の女性的な部分が反応するけれど、谷崎の場合は男性的な部分が共感する。私は自分のなかに男性的な面の方を多くそなえているので、谷崎の方が、深く共感しながら読んでしまう。
 谷崎潤一郎というと女性に支配され身を滅ぼす男の話が多いイメージだけれど、谷崎自身がマゾの気があったとのこと。確かに、好色なだけならこんな小説は書けないだろう、という話が多いと思う。まだ、「刺青・秘密」と「痴人の愛」しか読んだことはないので断言はできないけれど。

 全編それぞれに魅力があって、どの話にも大なり小なり好きだなと思う部分があったけれど、一番共感しながら、というよりも納得しながら読んだのは、「異端者の悲しみ」だった。これは、谷崎の自伝的な小説とのこと。
 あと、「母を恋うる記」。これは、最初の数行を読み出した時点で特殊な小説だ、という気がして、ことさらじっくり読んでいた。一番胸にせまる小説であり、谷崎の描写と文の美しさにしみじみとした。