メモ
2008.05.29
 「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」を読了しました。
 何といってもこのタイトル、そしてカバーのイラストにひかれてハードカバーが発売された当時から気になっていた本です。ただ、タイトルのインパクトが強すぎただけに、奇をてらった軽い小説なのかなと思っていたことも事実でした。けれど実際のとことはちっともそんなことはなく、いい意味で予想を裏切ってくれました。

 ストーリーは多分に寓話性を含んだ筋立てで、決して骨太な現実味のある小説ではない。けれど、ちょっとした人物描写や感情の動きがやけに生々しい。主な登場人物は四人、そのそれぞれが確固とした(むしろ強すぎる)個性を持っていて、それが互いに相容れない。なにかを譲ることも、離れることもないまま一つ屋根の下にそんな人々が住んでいるのだから、そのつながりも本人たちも当然のように崩壊していく。それをただそのまま書いただけの物語。

 ただ、解説でも触れられているけれど、描かれるのは終りとしての絶望ではない。これから始まるための絶望だ。
 ハッピーエンドや明るいストーリーを否定する気はないけれど、マイナスのまったくないもの(小説でも実際の生活でも性格でも)は、どうしても嘘くさいと思ってしまう。そんな不自然な健全さではなく、かといって自己憐憫するために陥る絶望や必要以上に神格化された絶望でもない。希望も絶望も過度に肯定しない、拒否もしない、対等な視点で見ている小説は、素直に好感を持てる。