メモ
2008.08.01
 ぐんぐん読み進めて、「ノスタルギガンテス」を読了しました。

 読み終わって、なにも残らない、空虚だけが残る小説だった。たとえば絶望とか憎悪とか、やるせなさとかむなしさとか、そういうものがずっしりと残る小説はたくさん読んできた。けれど、ただからっぽだけが残るというのは、初めての経験かもしれない。

 主人公の櫂は、忘れることができないということを恐れている子どもで、これは精神年齢が高いとかっていう話ではなく、きっと人として(普通の生活を送るための人として)、あまりにも重大な欠陥だと思う。
 忘れたくないという欲求は、もしかしたら死にたくないというよりも大きな、人間の持つ本能じゃないかと思うからだ。根源的なところで周囲とちがう人はうまく生きられない。生き方のうまいへたは、世界が決めるものだからだ。

 櫂の持つ意識と見えている世界はあまりにも他のすべての人間とかけ離れていて、だれも櫂の見ているものが見えない。櫂が子どもだからということもあって、櫂が自分とちがう世界を見ていると想像できる人間すらいない。そんなその他の人々に、櫂はちがうんだ、と叫ぶしかできない。間違っているのに、そうじゃないのに、偽物なのに、伝わらない。孤独ではなく孤立。そんな場所に櫂は立ち続けているし、これからもそうだろう。

 どこでもない場所で起こったこの世界では起こりえなさそうな出来事。望みやしなかったその渦の真ん中に置かれた櫂の、これはどんな物語なのか、どの言葉を使っても私には説明できない。

 おすすめ、ありがとうございました。とても大切な本がまたできました。