メモ
2008.12.08
 5日に読み終わっていた「つむじ風食堂の夜」、とても素敵な本でした。

 語り手は、月舟町の月舟アパートメントに住む「雨降りの先生」。
 <本当に美し>い皿で料理が出される、先生行きつけのつむじ風食堂。食堂の常連や月舟町で暮らす面々との、やさしく懐かしくぬくもりの宿った日々の物語。

 こことはちがうどこかで送られている清々しくきらめく日常をそっとのぞかせてもらったような、なんとも心地いい読書だった。小さな子どもがキラキラと光る石をてのひらにつつんで飽きずにみつめるような純粋さと楽しさで、「雨降りの先生」の語るさまざまなささやかな出来事をそっと脇から見させてもらった気分。
 8つの短編で構成されているけれど特別どの1編が好きということはなく、すべてをひっくるめて、先生の語るこの物語が好きだなと思う。

 人間なのだから、人とささいな諍いを起こしたり、真剣に悩んだりすることだってある。けれどそれと同じように、生きているのだから、ふと顔がほころぶようなこともある。たまには、奇跡だって起こる。
 かたちこそ違えど本質的には誰の上にでも起こり得るようなそんな日々のあれこれが、少し不器用な語り口でゆったりと綴られている。
 詳しいあらすじは語りたくない。ぜひ、先生の語りでこの物語に触れてほしい。一文一文を楽しみながら、先生の周りにいる人々や彼らをとりまいて起こった出来事を知っていく。きっと、とても幸せな体験ができる。

 なんとなく、降るように星がきらめく冬の夜に開きたくなる本だなと思う。心がすり切れそうになる読書も好きだけれど、そんなストーリーに疲れてしまったときには、心にぬくもりが生まれるようなこんな本が読みたくなる。

 作者の吉田篤弘さんはクラフト・エヴィング商會の物語作家とのこと。クラフト・エヴィング商會の名前だけはずっと知っていたけれど、かかわるものを読んだのはこれが初めて(のはず)。
 クラフト・エヴィング商會に思い入れはないけれど、吉田さんの小説はぜひ他にも読んでみたい。