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『マンデラの名もなき看守』
Goodbye Bafana
制作 : 2007 年 フランス / ドイツ / ベルギー / イタリア / 南アフリカ
監督 : ビレ / アウグスト
キャスト : ジョセフ・ファインズ / デニス・ヘイスバート / ダイアン・クルーガー / パトリック・リスター
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 アパルトヘイト政策に反対し反逆罪で逮捕され、27 年ものあいだ刑務所に収容されたネルソン・マンデラ。後に南アフリカ共和国の大統領となる歴史的人物であるマンデラと、時に友人のように、家族のように、そして黒人を迫害する白色人種の一員として相対した看守・グレゴリーの、交流と半生を描いた映画だ。

 グレゴリーはマンデラの収容された地区の検閲官に抜擢される。幼い頃にアフリカの黒人の少年と交流があり、彼らの母国語であるコーサ語に堪能だというのがその理由だ。これが、グレゴリーとマンデラの出会いである。

 作中で「黒人に対しての扱いは不公平だ」と疑問をぶつける幼い娘に、グレゴリーの妻が「神様の意思なのよ。ツバメとスズメは違うの。これが自然なのよ」と説くシーンがある。黒人を隔離することに罪悪感などない、「それがあたり前」という意識が浸透している時代なのだ。

 そんな世相のなか刑務官として生きながら、グレゴリーの胸の底にはかつて友人だった黒人の少年との思い出がある。アパルトヘイトに同調しながらも、周囲の白人たちのように邪気なく黒人を虐待することができない。
 しかしだからといって、グレゴリーは表立って黒人を擁護するわけではない。刑務官は彼の仕事であり、生活の糧を失えば家族を路頭に迷わせることになるのだから、それが当然だ。マンデラの公平な人柄に感化されながらも、グレゴリーは決して政治的な活動に身を投じはしない。心のうちに葛藤を抱えながらも、彼はただ刑務官としての仕事を全うしていく。
 上官の前では一刑務官として、家族のまえでは常識的な白人の父として。そしてマンデラと関わる時にだけ、黒人に対する割り切れない思いと、そこから生まれる気遣いを見せる。

 立場は白人のまま黒人に心を寄せながら幾十年をマンデラに関わってゆくうちに、マンデラとグレゴリーの間に、ほのかな友情らしきものが育ってゆく。
 大きくうねる南アフリカ共和国の情勢のなかで、マンデラはまさにその渦の中心にいる人物であり、対してグレゴリーは一歯車のひとつでしかない。そもそもが違う世界にいるふたりなのだ。黒人と白人であり、囚人と看守であり、歴史的大人物と一民間人である。正反対に位置するふたりが、食い違う立場ゆえに時に対立しながらも一人間同士として互いをいたわり合う交流を持つ姿に、静かに胸を打たれる。

 映画としての派手さはない。事実を積み重ね、誠実にネルソン・マンデラとその看守の交流を追った作品だ。
2011.01.13