映画 > 洋画
『イップ・マン 葉問』
葉問 2
制作:2010 年 香港
監督:ウィルソン・イップ
キャスト:ドニー・イェン / サモ・ハン・キンポー / ホァン・シャオミン
>> eiga.com

 伝説の香港アクションスター、ブルース・リー。彼の師であった詠春拳の達人・葉問(イップ・マン)の、誇りと尊厳を賭けた闘いと生き方を描く。

 舞台は 1949 年のイギリス統治下の香港。西洋人と中国人の間に立って微妙なバランスの舵を取るホン師匠が束ねる香港に、詠春拳の達人である葉問が移住してくるところからストーリーは始まる。

 常に穏やかな空気をまとい、可能なかぎり争いを避け、必要以上に相手を痛めつけることを決してしない葉問。少しずつ集まる弟子に彼が説くのは「争わないために闘う」という教えだ。
 大人数を一度に相手にしても決して引けをとらない実力を持ちながら、葉問は決して安易に拳を振り上げない。この映画には、葉問が拳を寸止めにするシーンが何度も現れる。まずは相手に敗北を教える。それを認めない相手にだけ、実力で闘いが終わりであることを悟らせる。葉問の闘い方はいつでもその手順を踏む。その懐と情の深さが、どうしようもなく私を惹きつけた。

 そんな、争いを好まない葉問が、初めて自ら闘いに挑む。それが、尊敬するひとのため、そしてそのひとが守ろうとしたもののためなのだ。怒りに駆られてはいても、その怒りは決して自身のためではない。葉問はどこまでも高く広い視野を持ち、人としての正しさを規範に生きている。
 葉問には、決してぶれることのない軸がある。それが彼を無為な争いから遠ざけさせ、いわれのない苦難のなかにおいても、家賃にもことかく貧しさのなかにおいても、彼を変わらずまっすぐに立たせている。

 流麗で鮮やかなアクションの魅力は言うに及ばず、中国武術に対する誇りやイギリスによる香港支配という歴史など、様々な視点から見所を感じ取れる映画だと思う。

 ちなみに、この映画は中国では『葉問 2』として公開されたものである。『葉問 1』は日本未公開で、この『葉問 2 』、邦題『イップ・マン 葉問』が 5000 人を動員すれば『イップ・マン 序章』として『葉問 1』を公開するらしい。
 強烈過ぎるほど葉問と対照的に描かれているイギリス人達の虫唾の走るような人間性は、思わず目を逸らしたくなるような醜悪さだった。けれど、『葉問 1』は日本占領下の中国が舞台らしい。「西洋人に虐げられるアジア人」として日本人が作中の中国の人々に心を寄り添わせることは許されない。1940 年代、イギリスも日本も中国にとってはどちらも一敵国であったのだ。この点で、観ていて逃げ場のない、つらい映画でもあった。
2011.02.02