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『ザ・タウン』
The Town
制作:2010 年 アメリカ
監督:ベン・アフレック
キャスト:ベン・アフレック / レベッカ・ホール / ジョン・ハム / クリス・クーパー / ブレイク・ライブリー / ジェレミー・レナー / ピート・ポスルスウェイト
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 強盗が《家業》のように親から子へと継がれてゆく街、ボストン・チャールズタウン。仲間をかばって 40 年の刑に服している父を持つダグは仲間から厚い信頼を寄せられ、家族のような強い結束で繋がったプロの強盗集団のリーダーを務めている。
 その彼が銀行の支店長である女性を人質に取った時から、彼の心は急速に変化を始める。

 生まれた境遇によって、ひとは否応なしに多くのしがらみに囚われている。ほとんどのひとはそのしがらみのなかで何とか人生をしのいでゆく。嫌だと思うことも逃げ出したいと思うこともある。しかし、ひとは結局のところそれらを実際にはねのけはしないものだ。しがらみというのは、同時に愛や絆と呼ばれるものでもある。
 しかし、その生まれついて背負っていたしがらみが、どうしようもなく泥にまみれたものだったらどうだろう。それでも家族や仲間への愛や情で、「こうありたい自分」を捨てておけるものだろうか。「こういう境遇に生まれた自分」を諾々と受け入れられるものだろうか。

 強盗団のリーダーでありながらタウンの外へ出てまともな生活をしたいと願うダグ、彼を兄弟のように思いタウンの中で共に生きてゆこうとするジェムやダグを愛するクリスタ、ダグにとって美しい《外》の象徴であるクレア。
 チャールズタウンに住む人々のなかで、ダグだけが異質なのは「生まれたのとは違う場所で生きたい」と願っていることだ。その願いを責めることは出来ないけれど、そのひずみがジェムもクレアも巻き込んでゆく。

 ダグもジェムも、それぞれに愚かな男だ。タウンの外への夢を諦められないダグも、外で生きてはゆけないと始めから諦めているジェムも、両方に「もっと違う考え方があるだろう」と叫びたくなる。
 ただ、個人的には、自分のために愚かな行為をするダグよりも、仲間のために愚かになれるジェムの方がずっと好感が持てた。暴力的で頭に血が上りやすく、しかし家族や仲間に対する情愛が決して揺らがないジェムの人となりはとても魅力的だ。なかばまで「良心のある主人公」との対比として置かれただけの「根っからの粗暴なキャラクター」だと思っていただけに、内心を吐露してからの彼の存在感は深く印象に残った。相対的に、ダグの情けなさとずるさが心に残っている。

 『ザ・タウン』は「泥の中に生まれた自分」を引き上げられるか否かの物語だ。できることなら、さらに踏み込んで「そこは本当に泥の中だろうか」という問いも投げかけて欲しかった。
 設定や人物造形、終盤までの流れが素晴らしかっただけに、無難にまとめたしりすぼみのエンディングがおしい。
2011.02.09