映画 > 洋画
『英国王のスピーチ』
The King's Speech
制作:2010 年 イギリス・オーストラリア
監督:トム・フーパー
キャスト:コリン・ファース / ジェフリー・ラッシュ / ヘレナ・ボナム=カーター / ガイ・ピアース / デレク・ジャコビ / マイケル・ガンボン / ティモシー・スポール
>> eiga.com

 軍事面で国民を率いていた時代と違い、現代の国王は言葉で国民を支えることが出来なければならない。
 ヒトラーが現れドイツとの関係が悪化し第二次世界大戦を目前にした英国で、国民を導き兵を奮わせる演説をできない吃音症のジョージ六世は、自らの王としてのふがいなさに苦しんでいる。

 まだ王位を継ぐ前、皇子としてのスピーチを行う最初のシーンで、まず私は涙ぐみそうになった。数百人が見つめるなかでマイクの前に立ち、原稿を握り締め、震える口を開く皇子・アルバート。王の代役としてその場に立ちながら、スピーチを行うことができない。
 たった一人で群衆に立ち向かい、そしてもろくも敗北するその姿に、私は妙に深く共感してしまった。

 ストーリーは驚きも衝撃もなく、ただあるがままに進む。厳格な父王への葛藤、伝統を覆そうとする兄との軋轢。史実を元にしているのだから、現実離れした展開などない。
 ただ、そのなかで、アルバートを信じ続けていつでも傍らに立ち支えた妻エリザベスと、彼のスピーチを成功させるべくユーモアと真摯さで癇癪持ちのアルバートに決して退かず彼を導いたローグの姿が静かに心に沁み込んできた。
 また、戴冠式のリハーサルのシーンでアルバートとローグが問答するシーンでアルバートが放つ強い一声が、今も耳に残っている。

 どうも、退屈と感じるひともいる映画らしい。
 私は小さな頃から人前で喋るのが苦手で、吃りはしないけれどどうしても最初の一声を上げることができなかった。この映画は、アルバートに共感できるかどうかで、感想が変わってくるのかもしれない。

 時代背景は暗く、開戦を告げるスピーチで終わるこの映画は、決して希望へ向かうものではない。けれど、戦争へ突き進むなかで光り輝く国王が生まれたことは、紛れもなく英国民の支えとなった。
2011.03.02