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『ショーシャンクの空に』
1994 年 アメリカ 143 分
原題:The Shawshank Redemption
監督:フランク・ダラボン
キャスト:ティム・ロビンス / モーガン・フリーマン / ウィリアム・サドラー / ボブ・ガントン / ジェームズ・ホイットモア / デビッド・プローバル
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 どこへ行ってもいい評判しか聞かないことに驚いていたのだけど、観てみて納得した。確かにこれは名作だ。
 妻とその愛人を殺したとして無実の罪でショーシャンク刑務所に入れられたアンディは、そこで “調達屋” のレッドと親しくなる。ふたりの友情が育まれてゆく姿を軸に、腐敗した刑務所とそこで生きる囚人たちを描く。

 長身でどこか哀しげな風貌のアンディは一見もろく弱々しげに見える。レッドは、収監初日の夜に誰が一番に泣き出すかという賭けでアンディに賭ける。確かに彼はそう見られておかしくない優男だ。
 しかしアンディは、その夜他の新入り達が泣き崩れるなか、一言も声を発さない。アンディはその身のうちに柔らかな強靭さを秘めている。

 アンディの強さは変わらないことだ。環境にそって自分をゆるやかに曲げてゆく。誰もがすることだ。周りに順応し、折れるところでは我を折って、衝突を避け身を守る。
 しかしアンディは、囚人生活にあってなお自らの趣味や嗜好を手放そうとしない。危険を承知でやすらぎや充実感を求めてやめない。多少の危険を冒してでも心を潤わせることを求める。何故そんなことのために、などと言ってはいけない。罪なくして檻の中に入れられ、悲惨な日々を送る彼にとって、希望を持ち続けることそのものが救いだったはずだ。

 そんなアンディに、レッドは心からの忠告は送る。希望は危険だ、と。外の世界への希望など捨てろ、塀の中という環境に順応してしまえ、そうしなければここで生きてゆくことが出来なくなってしまう、と。
 互いに相手を思いやり確かな友情を築いてゆくふたりの、たった一点食い違った部分だ。アンディは囚人たちに希望を贈ろうと努力し続けるし、レッドは希望を恐れて遠ざかろうとする。

 実際、自分であることをやめなかったからこそ、アンディはいくつもの災難に襲われる。囚人からも、看守からも、所長からさえ利用され踏みにじられる。口をつぐみ、目立たぬよう、逆らわぬよう生きていれば決して生まれることのなかった過酷な事態だ。
 しかし、そこで我を手放すことをしないアンディだからこそ、多くの友人たちに愛され、信頼を得、そして彼の言葉に説得力が生まれたのだ。自身も彼のようなひとであれればいい、と私は思う。アンディというのは、そう思わせるだけの魅力にあふれた人物なのだ。

 正直に言って、これ以上ないほどの傑作というのではない。映画好きなひとなら、これよりも印象深く忘れ難い映画に何作も出会っているだろうと思う。
 けれど、人物造形やストーリーの無理のなさ、シリアスとユーモアを乗せた天秤の絶妙な傾き具合に清々しいエンディングと、驚くほどバランスの取れた映画なのだ。素直な心で観て、不必要に泣いたり傷ついたりすることなく、なのに胸の深いところにすとんと心地良く落ちてくる。これほど軽やかでありながら記憶に残る作品は稀有な存在だ。「好きな映画は?」と聞かれて思わずこのタイトルを挙げてしまう気持ちがわかる。

 作中では、何人ものひとが死ぬ。「死」というのは決して覆らない結果だ。誰にも取り戻すことはできない。その容赦のない「死」というものがいくつも描かれたことだけが、少し心につらかった。
2011.05.29