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『ジャンヌ・ダルク』
1999 年 フランス / アメリカ 157 分
原題:The Messenger: The Story of Joan of Arc
監督:リュック・ベッソン
キャスト:ミラ・ジョボビッチ / ジョン・マルコビッチ / フェイ・ダナウェイ / ダスティン・ホフマン / バンサン・カッセル / チェッキー・カリョ / パスカル・グレゴリー
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 オルレアンの乙女、聖女、異端者、魔女。さまざまに呼ばれる歴史上の偉人ジャンヌ・ダルクを、ひとりの人間としてとらえた映画。
 神の声を聞き、オルレアンを解放したジャンヌ・ダルクの幼少期から火刑に処せられるまでを、彼女の心情を中心に据えて描く。私は神の実在を信じていない。そういう私にとって、ここで描かれるジャンヌの解釈はすんなりと納得のいくものだった。

 彼女は、自分自身の信仰心と周囲の人間が発する言葉をこね合わせて生まれた自分のなかから聞こえる声を「神の声」と信じた。自分を神の使者と信じ、祖国を救わんとして輝かしい栄光を望んで兵を率いた。
 彼女は現実を見ず、「神の声」である自分の内面にしか意識を向けない。だから自分の立場を客観的に見られず周囲の人間が言う事をきかないと癇癪を起こし、実際に戦場に足を踏み入れ目前に戦いを見せつけられなければ戦うというのは血が流れ人が死ぬことなのだということなのかすらわからない。いざ男達と同じ戦場のただ中に入り込むと所在ない迷い子のように頼りなげに右往左往し、血と肉片が一面を覆い尽くす戦場跡を前にして足をすくませる。

 宗教は思考停止する行為である、とは言わない。しかし、その危険を大きくはらんでいるものだとは思う。
 私は神が実在するとは思っていないので、神があるとすればそれはひとりひとりの人のなかにだけだと思っている。神は間違いを犯すことなく常に正しいと信じるのは、自分だけはいつでも自分以外の人間は間違っていると信じるのと同じだ。そうやって神を自分と完全に同化させた人間は、悩むことも考える必要もなく、ただ神という名の自分自身を絶対の真理として信奉する。

 この映画で描かれているジャンヌ・ダルクは、その落とし穴にはまった少女だった。憐れだ、と思う。首が断たれ腕が切り落とされる戦場にあって、誰よりもジャンヌ・ダルクの愚かで盲目な姿が憐れだった。
2011.05.22