制作:2010 年 日本
監督:工藤進
キャスト:林原めぐみ / 八嶋智人 / 東地宏樹 / 中井和哉 / 磯部勉 / 田中正彦 / 若本規夫 / かないみか / 三宅健太 / 脇知弘
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原作を読まず世界観もろくに知らずに観てきた。劇場で観られてよかった。とても私好みの作品だった。
近未来、少女娼婦のバロットはとある陰謀に巻き込まれて命を落としかける。しかし、生命の保護という目的に限って禁じられた科学技術の使用を許可する「マルドゥック・スクランブル - 09 法」によって彼女はその一命を取り留めた。
彼女を助けたのは医師イースターと人語を解する金色のネズミ、ウフコック。ふたりと共に、彼女は自らが巻き込まれた犯罪の解決に向かう。
65 分の短い映画で、この『圧縮』の他、第 2 部『燃焼』、第 3 部『排気』までが予定されている。
正直に言って、中盤を過ぎるまでは退屈に感じるひともいるかもしれない、と思う。劇場アニメならではの作画の美しさとハードボイルドな雰囲気で見ごたえはあるけれど、主人公ルーン = バロットの過去や感情がいまいち見えてこなくて落ち着かない部分が気にかかる。
けれど、その流れは彼女がウフコックを信頼し、戦いのために自ら銃を握って一変する。ガンアクションがめっぽう好きな私の感覚だから、ひとによっては終始乗りきれないまま終わる映画なのかもしれない。けれど私は、バロットの乞う虚しい愛や、ウフコックが見せる心からの誠実な好意、そして少女が弾丸に乗せて放つ恍惚と、握られる銃の慟哭に、深く魅了されてしまった。
映画前半の彼女があまりに曖昧な感情しか見せないのは、彼女自身が自分が何を思っているのかわかっていないからだ。その彼女が、銃撃のなかでようやく、初めて、かつての自分が味わっていたものを知る。その姿はどうしようもなく痛ましく、虚しい。しかし美しい。
こういう作品を観ると、もっともっと徹底的に観客を打ちのめしてくれていい、と思う。そう思わせてくれる作品は少ない。稀有な出会いをできたを思う。
第 2 部は 2011 年秋、第 3 部は 2012 年公開予定とのこと。楽しみだ。原作を読むのは、第 3 部を観終えるまで待っておこうと思う。映画と小説というのはまったく別の作品で、今は映画『マルドゥック・スクランブル』にひたっておきたい。
ちなみに、観に行くか迷っていた時にトレイラーを探していたら 2006 年にゴンゾが公開予定だったという『マルドゥック・スクランブル』の OVA の PV を見つけた。それを見て何年も前になにかの DVD に収録された同じ PV を見て気になっていたのを思い出し、あの作品なら、と観に行く最後の一押しになった。こういう縁で良作に出会えるのは本当にありがたい。
しかし、日本の劇場アニメには本当に良作が多い。