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『ミュンヘン』
 1972 年に起きたミュンヘンオリンピック事件を元にした映画である。イスラエルのオリンピック選手 11 人がパレスチナのテロ組織により殺害されたのがミュンヘンオリンピック事件だ。事件後、イスラエルはテロの主要メンバー 11 人の暗殺を計画した。本作は、その暗殺計画に従事したグループのリーダーを中心に進んでゆく。

 映画というのは創作である。いかに史実を求め忠実さを磨こうとしても、映画は創作でしかありえない。ましてやこのような幾重にも隠された裏の裏が存在するのだろう事件に対して、現実に起きたことを求めるのはさほど価値のないことだと思う。
 映画は報道ではない。事件そのものでなく、そこにある人間を描くことにこそ映画の価値がある。スピルバーグ監督によるイントロダクションでも、およそ同様のことが語られている。この映画が描くのはミュンヘンオリンピック事件から起こった一連の暗殺ではなく、それを実行した人々である。

 暗殺計画のリーダーとして選ばれたアヴナーは、出産間近の妻を持ち、ごく平穏に暮らしていた。歴史的背景、民族の意識、なんらの知識も持たない私には、彼がなぜこの任務を引き受けたのかは理解できない。とにかく彼は、妻と子を残して祖国のために動き始める。当局とは関係がないという契約書にサインをし、 4 人のメンバーと資金を与えられ、11 人の暗殺を始める。

 殺人ということの意味は私にはわからない。が、映画によってはわかった気にさせられてしまうものもある。それは、割りきって殺人が描かれている時だ。『ミュンヘン』は違う。最後まで、私にはアヴナーのしたことが何なのかがわからなかった。
 アヴナーと合流し、和やかに交流を深め、共に計画を進めていったメンバーたちは、時を追うごとに精神が追い詰められ険悪さを増してゆく。

 祖国のアスリートたちが殺され、殺した首謀者たちを殺してゆく。その過程では多くの人々が死に、残る者にも平穏はない。終始雲の垂れ込める灰色の空が、この映画の空気を示し続けている。
2005 年 | アメリカ | 164 分
原題:Munich
監督:スティーブン・スピルバーグ
キャスト:エリック・バナ、ダニエル・クレイグ、キアラン・ハインズ、マチュー・カソビッツ、ハンス・ジシュラー、ジェフリー・ラッシュ、アイェレット・ゾラー、マチュー・アマルリック、モーリッツ・ブライブトロイ
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2012.03.28